El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

2021-01-01から1年間の記事一覧

パーソナル トップ10レビュー(2021)

コロナ2年目の2021年も終わる。還暦を過ぎて本格的にブックレビュー・ブログを始めたが、今年の記事数は172本と最多となった。次第にフィクションが読めなくなっているのは現実に起こることがフィクションじみているからだろう。フィクションが現実を超えら…

インド残酷物語

女性のフィールドワーク研究者の書いたインドの今。 インド残酷物語 世界一たくましい民 (集英社新書) 作者:池亀彩 集英社 Amazon インドのことがそもそもほとんどわかっていなかった。イメージとしての人が多く混沌とした感じは昔から持っていたが、具体的…

訣別 (上・下)

ハリー・ボッシュ シリーズ (19) 2016年、ボッシュ66歳の設定 訣別(上) (講談社文庫) 作者:マイクル・コナリー 講談社 Amazon LAPD(ロス市警)を組織の論理で追い出されたボッシュはLAPDに対して法廷闘争中。ゆえに昔の仲間も敬遠気味だ・・・どこか…

マルジナリアでつかまえて

本の「書き込み」についての文化論 マルジナリアでつかまえて 書かずば読めぬの巻 作者:山本貴光 本の雑誌社 Amazon マルジナリアmarginaliaとは本のマージン(空白部分)に読者が書き込んだ部分を指す。 「本の雑誌」に連載中から読んでいたが、単行本化し…

ジェネリック医薬品の不都合な真実

驚愕のインド産ジェネリック薬 ジェネリック医薬品の不都合な真実 世界的ムーブメントが引き起こした功罪 作者:Katherine Eban 翔泳社 Amazon インドのジェネリック製薬業の歴史、その発端から興隆の道程、そして世界がそれを受け入れざるを得なかったわけ、…

ブックガイド(100)―感染症医奮闘のドキュメンタリ―

このシリーズも100回となりました。新シリーズまで充電期間に入ります。 超耐性菌 現代医療が生んだ「死の変異」 作者:マット・マッカーシー 光文社 Amazon 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセ…

詰むや、詰まざるや  森・西武 VS 野村・ヤクルトの2年間

プロ野球「文章+YouTube」 名勝負の新しい楽しみ方 詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 作者:長谷川晶一 インプレス Amazon プロ野球日本シリーズ、森・西武 VS 野村・ヤクルト。1992年は4勝3敗で西武、1993年は4勝3敗でヤクルト。名勝負…

源氏将軍断絶 なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか

「親子か兄弟か」 血族内の権力継承はたいていこれでつまづく 源氏将軍断絶 なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか (PHP新書) 作者:坂井 孝一 PHP研究所 Amazon 鎌倉幕府の源氏将軍は頼朝-頼家-実朝の三代、1192年から1219年の27年で断絶した。三代実朝に子がいな…

幻夏

Audibleで聴きました・・「冤罪」への復讐譚 復讐部分が荒唐無稽すぎ 幻夏 作者:太田 愛 Audible Amazon 日本の死因究明制度を調べたことがあって、日本の警察・検察・裁判の暗部というか、冤罪作りやすい体質は重々感じていて、その部分は、わりとよく書け…

続・私の本棚 (9)世界一売れたあの薬はJapan Made

還暦過ぎの元外科医ホンタナが、医学知識のアップデートに役立つ一般向け書籍をセレクトし、テーマごとに同世代の医師に紹介するブックレビューのセカンドシーズン「続私の本棚・還暦すぎたら一般書で最新医学」です。 第9回のテーマは「日本の創薬」。オプ…

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか

落合中日の8年間のクロニクル 嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book) 作者:鈴木 忠平 文藝春秋 Amazon かなり売れている、野球本としては異例のことだ。落合博満が中日監督だった8年間。それぞれの年の出来事を、毎年いろいろな選手やス…

認知バイアス 心に潜むふしぎな働き

愚かさにもわけがある 認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス) 作者:鈴木宏昭 講談社 Amazon 一時期、認知バイアスにもとづいた「行動経済学」本がブームになり本ブログでもいくつか紹介した。本書を、なんで今頃、それもブルーバックスで「認…

本の雑誌 2022年1月号

「本の雑誌」が選ぶ年間ベスト10はここに記録しておきたい 本の雑誌463号2022年1月号 本の雑誌社 Amazon 長年定期購読している「本の雑誌」だが、1月号には前年の年間ベスト10が発表される。本好き(?)が選ぶためかややマニアックだが、こんな1年だったよ…

エマニュエル・トッドの思考地図

トッドの著作はフォローしておくべき、ただし新書は買うとこまでいかない エマニュエル・トッドの思考地図 作者:エマニュエル・トッド 筑摩書房 Amazon 1976年に歴史人口学・歴史統計学的な切り口でソ連の崩壊を予言したトッド(「最後の転落」)は、同様な…

クワイエット・コーナー2 日常に寄り添う音楽集

この本とApple Musicでdelightfulな音楽生活を ♪ クワイエット・コーナー2 日常に寄り添う音楽集 作者:山本 勇樹 シンコーミュージック Amazon いわゆるDiscガイドですが、個人的に「当たり」が多いのがうれしい。音楽のサブスク時代を意識して編集されてい…

ブックガイド(99)―創薬もスリリングだ!―

遠藤章先生にノーベル賞を! 世界で一番売れている薬: 遠藤章とスタチン創薬 (小学館新書) 作者:喜美子, 山内 小学館 Amazon 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、…

保守主義とは何か

「進歩主義」の時代の終わりに 保守主義とは何か 反フランス革命から現代日本まで (中公新書) 作者:宇野重規 中央公論新社 Amazon 「今日と同じでない明日」、そんな時代があった。そんな時代は大きな変革・革命・戦争で始まる。フランス革命、ロシア革命、…

「完熟」の老い探求

哲学教授の人生って 「完熟」の老い探究 作者:瀬口昌久 さくら舎 Amazon かなり自費出版っぽい。内容はほぼギリシャ・ローマの哲学者のお言葉の引用。ギリシャ・ローマ哲学を長年やってきたんでしょうね著者は。名工大で「哲学」の教授だとどうしてもタコツ…

金閣寺の燃やし方

金閣寺事件にも多面的な見方がある 金閣寺の燃やし方 (講談社文庫) 作者:酒井順子 講談社 Amazon 金閣寺焼亡事件を小説に描いた三島由紀夫と水上勉を比較することで、主に三島の性格的にユニークな部分を描き出すことに成功している。その分析の中では「金閣…

死体格差 異状死17万人の衝撃

最近動向を踏まえた日本の死因究明制度分析 死体格差 異状死17万人の衝撃 作者:山田 敏弘 新潮社 Amazon 「日本の死因究明制度がいかにダメか」という本はこれまで何冊も書かれているがその多くは、その当事者の一人である法医学医師(多くは大学の法医学教…

超耐性菌 現代医療が生んだ「死の変異」

タイトルとは違って、感染症医の奮闘と努力のドキュメンタリー 超耐性菌 現代医療が生んだ「死の変異」 作者:マット・マッカーシー 光文社 Amazon 著者のマット・マッカーシーはプロ野球マイナーリーグの経験もある医師。感染症医としての著者マットが抗菌薬…

鎌倉殿と執権北条氏

2022大河ドラマ「鎌倉殿の13人」 鎌倉殿と執権北条氏 義時はいかに朝廷を乗り越えたか (NHK出版新書) 作者:坂井 孝一 NHK出版 Amazon 2021年の大河ドラマは見なかったが、2022年の大河ドラマは「鎌倉殿の13人」。源平合戦ー鎌倉幕府ー北条氏の覇権ー承久…

世界で一番売れている薬

創薬もスリリングだ! 世界で一番売れている薬: 遠藤章とスタチン創薬 (小学館新書) 作者:喜美子, 山内 小学館 Amazon 日本が世界に誇る創薬はいくつかあるが、まさに「世界で一番売れている薬」であるコレステロールを下げる薬、スタチン(メバロチンやビタ…

女帝 小池百合子

逆に小池百合子の上昇志向をほめたい 女帝 小池百合子 (文春e-book) 作者:石井 妙子 文藝春秋 Amazon 著者はまあ、小池百合子をまさに無茶苦茶にこきおろしているわけだが、逆に、言ってみれば裸一貫から、さまざまな武器を駆使して、国会議員になり大臣にな…

うんちの行方

「うんち」三部作、その2 うんちの行方 (新潮新書) 作者:神舘和典,西川清史 新潮社 Amazon この本のあとがきにもあるのだが、子供の本では漢字ドリルまで「うんち」化しているのに、大人の本でありそうでなかった「うんち」本が、このところ三冊続けて出版…

続・私の本棚 (8)医師も深く関与する「少子化」

還暦過ぎの元外科医ホンタナが、医学知識のアップデートに役立つ一般向け書籍をセレクトし、テーマごとに同世代の医師に紹介するブックレビューのセカンドシーズン「続私の本棚・還暦すぎたら一般書で最新医学」です。第8回は「人口」、特に「少子化」にフォ…

贖罪の街(上・下)

ハリー・ボッシュ シリーズ (18) 2015年 ボッシュ65歳の設定 贖罪の街(上) (講談社文庫) 作者:マイクル・コナリー 講談社 Amazon LADPの定年延長を陰謀で打ち切られたボッシュ。ハーレーのバイクをレストアする静かな日々を送ろうとするが、なにかしっ…

宝島

Audibleで聴きました。約40日のウォーキング期間(録音時間18時間22分)。 宝島 作者:真藤 順丈 Audible Studios Amazon 終戦(1945)から返還(1972)くらいまでの沖縄を舞台に、そのころの沖縄はこうだっただろうなというフィクション。書いたのは沖縄人で…

皮膚の秘密

皮膚のことを一通り知るには良い、ただし著者は美容系?かも 皮膚の秘密 最大の臓器が、身体と心の内を映し出す 作者:ヤエルアドラー ソシム Amazon 皮膚科というのは他科の医師にとってとっつきにくいところがある。本書の著者はドイツではマスコミにもよく…

金閣を焼かなければならぬ

頻発する動機不明の事件の背後には精神疾患を考えるべき 金閣を焼かなければならぬ 作者:内海健 河出書房新社 Amazon 1950年鹿苑寺金閣に火をつけて焼失させた見習僧、「林養賢」。その金閣焼亡事件を1956年に小説「金閣寺」として書き、作家としての名声を…