El librero la Fontana

El librero la Fontana・ホンタナ(いずみ)氏の本棚「人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ 」(アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

金閣を焼かなければならぬ

頻発する動機不明の事件の背後には精神疾患を考えるべき

1950年鹿苑寺金閣に火をつけて焼失させた見習僧、「林養賢」。その金閣焼亡事件を1956年に小説「金閣寺」として書き、作家としての名声を確固たるものとし、1970年に自衛隊市ヶ谷駐屯地で自刃して死んだ作家「三島由紀夫」。二人の行動の精神病理学的背景をプロの精神科医が読み解くというかなりユニークな本。

精神病理学を専門とする著者は、プロローグから第4章まで、林養賢による金閣焼亡事件を精神病理から分析する。著者は三島の「金閣寺」の描写から林養賢が分裂病(統合失調症)であることを感じていたらしい。

第4章から第8章までは、そんな描写ができながら、非業な死を遂げることになる三島由紀夫自身の精神病理を「金閣寺」と「鏡子の部屋」を読み解くことで明らかにしていく。

三島自身の強固なナルシシズム(おそらく、現代の精神医学ではASD:自閉スペクトラム、アスペルガー症候群と診断されうる・・・著者は明言してはいないが)が結局は自死でしか解決できなかったということか。

エピローグで著者が林養賢の墓参りに舞鶴を訪れる場面を含めて、話の運びや文章も(一部、精神病理学的すぎてついていけない部分もあるが)すばらしく、一気に読ませ、なおかつ余韻も残す。

理解不能な事件の背後にある精神病理学的背景を考える参考にもなる。最近、連続する電車内での無差別殺人企図事件などは統合失調症の可能性が高いし、社会的に成功しているにもかかわらず奇矯な行動をとる場合はASDも考えなくてはならない。

伊丹十三もASDだったのだろうなと、ふと思った。

調べてみると金閣焼亡事件を小説に書いた水上勉と三島由紀夫を比較分析した本「金閣寺の燃やし方」(酒井順子 2014)というのがあるらしく、そちらも気になる。