El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブラックボックス Audible

割と好きなドライな文体

第166回(2021年下半期)芥川賞受賞作。↓ 経歴や、経歴に関する考え方が面白い。

服役シーンを除けば、自転車や自衛隊など私小説的でもあるのだろう。キレやすい性格と将来不安、いかにも近くにいそうな人物で、キレでは人生を暗転させていくわけだが、刑務所内のささいなことから、なんとなく生きて行く術を学んだようなエンディング。

ささいなことにカッとなったり、人生の理不尽にイラついたり、それは自分にもあるけれど、表面には出さないトレーニングはしてきたし、実際もうこの歳ではさすがにキレることもない(ように思う)。

なんだか、新しい社会状況をこねくり回したプロットの芥川賞作品が多い中では、古典的でドライな文体が気に入った。

アーリヤ人の誕生 新インド学入門

予想外のおもしろさ!

<読書中>タイトル「アーリヤ人の誕生 新インド学入門」からは何が書いてあるのか想像もできないが、予想を上回る面白さですよ...たまたま書店の棚で見つけた。言語学から生まれたアーリヤ人という架空の人種が、優性主義的に構築され、人種主義に組み込まれていく。その姿は、進化論がたどった道と同じで、この時代の西ヨーロッパ(特にイギリス、ドイツ)における優性主義の根強さがどこから来るのか?

大阪駅から行く 青春18きっぷの旅

この夏、青春18きっぷに初挑戦!

この夏も猛暑が予想される中、青春18きっぷに初チャレンジしようとムック本を見ながらあれこれ考える。実は、関西こそ青春18きっぷにピッタリ、というのは「新快速」という首都圏でいえば有料急行・特急なみの普通列車があるからだ。おそらく、首都圏は東京・横浜・さいたま・千葉という大人口を抱えた都市が比較的近接しているのに比べ、関西圏の大都市、大阪・京都・神戸が適度な距離があり、周辺にも奈良・和歌山・大津・姫路といった観光都市があり、それぞれの都市間でJRと私鉄がモロに競合しているせいで新快速でアピールしているのかな。

青春18きっぷは1回につき1日の始発から終電まで有料列車以は乗り降りし放題で、それが5回分セットになった切符。12050円(金券ショップでは11700円前後)なので1回分が2410円。だから普通運賃で片道1200円以遠に行けば元がとれる。もちろん途中宿泊して5回分をつなげて北海道まで行くことも可能。

今回は真夏なのでできるだけ建物内(美術館や博物館)で過すことを考える。

①岐阜日帰り、②岡山日帰り、③静岡1泊2日、④津山1泊2日あたりを考えている。岐阜と岡山を日帰りしたら、それだけでもう12100円分乗ったことになるので、まあ残り3回分はオマケだと思って余裕をもって、ガツガツせずに行きましょう。

↑ と、書いたものの、岐阜の美術館行を予定している7月24日の岐阜市の最高気温は何と38℃。これは危険すぎる。行ってしまえば、何らかの行動をしてしまうだろうし・・迷うが危険をさけるのが正解か

ロシア語だけの青春

こんな熱中時代が、自分の若いころにもあったかなぁ

ロシア語に興味があるわけではないが、一時期スペイン語をやろうとしていたことがあって、語学を習得するための本当の勉強法ってどういうものか、そして、そんなふうに一つのことに打ち込む青春時代が自分にはあったかしら・・・なんて思いながら読んでみた。

野球やサッカーなどのスポーツをテーマにした青春ものは多いが、この本のような勉学ものの青春記もなかなか楽しい。そして、教えられることも多い。

「あとがき」がなかなかいい!語学だけではなく、人生の物語に共通する多くのことを含んでいるように思える。ここに書き写しておきたい。

学校は物語と相性がいい。
学校を舞台とし、学生生活を通して主人公が成長していく文学や小説は多い。
ただしその物語は、一人ひとり違う。たとえ同じ空間に身を置いても、誰の視点で描くかによって、まったく別のものになるい。
それもまた、学校の物語の特徴なのである。

本書の中で描かれているのは、あくまでも「わたし」のミール(註:本書の主人公ともいうべきロシア語学校のこと)にすぎない。だがミールの物語は決して一つではなく、生徒の数だけ存在する。(中略)

そもそも自分の記憶がどこまで正確なのか、自信のないか所もある。手元の資料は限られている。それでもわたしは、少なくともこの物語を自分の過去と信じて、ここまで勉強してきたことは、紛れもない事実である。(中略)

わたしは若い彼らの話に耳を傾ける。そして彼らにもまた、自分の記憶の物語があるという、当たり前のことを確認した。

それを語れるのは、本人だけ。学校の物語とは、そういうものではないか。

 

がん「エセ医療」の罠

ひどい・・・、ひどすぎる!

国民皆保険ということで誰でも低い負担でほぼ均一な医療が受けられる国、ニッポン。しかし、そんな状況も一歩、踏み外せば深い闇が広がっている。というのは、日本の医療行為の正当性・均一性がある程度保証されている根源は、そうした健康保険制度による監視体制があるから。

しかし、国民の多くはそれを知らないで、医師がちゃんとした医療を行うだけの法律でもあるくらいに思っている。しかし、そんな法律は存在しない。もちろん、傷つけるとか命を縮めるような健康への害が明らかなことを医療の名のもとに行えば、法律に違反するわけだが、それは傷害罪であったり、過失致死罪であったりと刑法の範疇。
- 逆に言えば、害にならない、あるいは毒にも薬にもならない医療行為を行ったとしても、健康保険と関わりなく、自費診療でやる分には、医師と患者の合意さえあればほぼなんでもOK。そういう健康保険外の医療行為を自由診療といい、その代表が美容整形や医療脱毛だった。

そして、今、自由診療のドル箱になっているのが「がん免疫療法」を中心としたあやしい、エビデンスのないがん治療。

がん免疫療法は、かつては次世代のがん治療と期待され、1990年代から2000年代にかけてのまさに私が医師になったころには、大学病院などで数多くの研究が行われていた。結局、免疫細胞療法は臨床試験で有効性が立証できず、保険診療として認められなかった。そして、がんには効かないというエビデンスだけが残ったのである。そこに医師人生をかけてしまった同僚もいるので、他人事とも思えない。

そんな、あやしいがん治療が跋扈していることは、たとえば女優(〇島なおみ)や歌舞伎役者の妻が不自然ながん死を遂げたときに報道されてきた。ところが、インターネット検索が当たり前の時代になって検索エンジンがヒットすることで多くの末期がん患者がこのあやしいがん免疫療法に取り込まれ、藁をもつかむ思いで、命ばかりか大金を失う事態が広がっている。

この本は、そうしたあやしいがん免疫療法を医師名や医療機関名を実名でバンバン紹介(告発?)しているかなりすごい本。もちろん、そうした医師や医療機関からの反発も強いのだが、その反発さえもが記録されているのがハンパない。
- 驚くのは、個人経営のクリニックならともかく大学病院がからんでいるケースもあることで、特に金沢大学付属病院の敷地内(!)にある金沢先進医学センターの話は、まさに事実は小説より奇なりです。国立大学の教授や付属病院長が退官後にこんなことしているなんて・・・と驚くばかり。ぜひ一読されたし。

イーロン・マスク (下) Audible

2021年~ つい昨日の出来事

テスラ、スペースXで快進撃を続けながら、思わぬ偶然からTwitterを買収したマスク。後半はTwitterでのドタバタ騒ぎがメインになる。とにかく、何事にもALL IN(全てを賭ける)のがマスク。日本の起業家みたいにある程度資産ができたら左うちわで、なんてことはこれっぽっちも考えていない。

まだ54歳、成功を続けるのか、没落への道をすすむのか、どちらにしても目を離せない、というか凡人は遠くから仰ぎ見るだけだ・・・