El librero la Fontana

El librero la Fontana・ホンタナ(いずみ)氏の本棚「人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ 」(アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

双調平家物語(12) 治承の巻

平氏 創業者 (清盛)VS 二代目社長(重盛)

平氏政権の創業者・平清盛と二代目社長・平重盛のバトルを軸に平氏政権の最盛期が過ぎていく日々をまるまる一冊で綴る。

苦労人の創業者・平清盛に対して、朝廷・院・藤原氏などとのバランス主義の二代目社長・嫡男の平重盛の対比が面白い。ワンマン社長・平清盛はとにかく口を出したい、任せられない上司の典型、一方の平重盛は自重しすぎで逆に父の言うことの逆を行きたい。そのさや当ての中で、しばしの平和な年月に朝廷・院・藤原氏(摂関家に傍流)さらには信西の家系の人々がまあ、実に細かい人事や婚姻に血道をあげる。特に微妙な出世競争はまさに現代の官僚と同じ。

そうした京都のサラリーマン社会(清盛は引退した社長として福原在)があり、一方で比叡山を中心とする僧兵たちの社会があって、それが交差してぶつかりあう。

最終的に、清盛が鹿ケ谷の陰謀(というか、陰口ばかりの飲み会?)情報を利用して、反対勢力を叩き潰す。それをまた重盛が調整に入る・・・とツッコミとボケがうまくコンビとして働いている間はよかったが・・・この後、重盛が先に死んでブレーキが効かなくなった清盛の暴走へ、次巻へ続く。

平和を壊すことでのし上がるものがいる・・・という事実。しかし、壊し続けることで自分サイドも壊れてしまうし、寿命というものもある。そうするとしばしの平和が訪れ、また破壊者が現れる・・・

延びすぎた寿命

21世紀は寿命が短縮する?

フランスの内科医による寿命論。全4部中、1. 微生物の時代、2. 医学の時代 は20世紀までにどのようにして寿命が延びてきたか。すでにレビューした「EXTRA LIFE」と同工異曲だがやや網羅的すぎてポイントがはっきりせず「EXTRA LIFE」に軍配。後半は現在から未来への警告という新しい視点。

第3部で論じられるのは医療経済とそれにともなう医療格差。長寿の結果高齢者が増えてくるとそれに比例して医療費が増大する。がん治療にともなう超高価な薬剤(抗体医薬など)の登場。それらを織り込んで医療の社会負担と個人負担の分配の問題ー所得が健康を左右する。また、タバコ、アルコール、肥満、運動不足という行動リスクもまた経済格差とリンク。

第4部ではアメリカ、イギリスの寿命の短縮。

アメリカの寿命短縮は主に中高年世代の死亡率の上昇による。これは上記の行動リスク、特に肥満と関係している。さらにオピオイドの過剰摂取と自殺(この二つは分別できないことも多い)。肥満が整形外科的疼痛を引き起こし、安易はオピオイド処方につながるという話もうなづける。

イギリスの健康悪化はアメリカと異なり乳幼児と高齢者の死亡率の上昇によるもので、イギリスの保険システムの慢性的な財源不足と社会的保護の弱さを反映している。無料のNational Health Service(NHS)が無料ゆえに即応的には機能しておらず、結局高額の私的医療機関を受診せざるを得ないなど、ここにも経済格差の影が・・。

とはいえ、日本の健康保険制度も巨額の財政赤字の上になりたっているわけで、安心はできない。近代医療が完備され限界長寿に近づいた国々はこの先、莫大な高齢者医療費をどうマネージメントするのかというあらたな課題に直面しているともいえます。これらの国々のこれからの高齢者はいわゆる第二次世界大戦後のベビーブーマー(日本では団塊世代)であり、その波をどう乗り越えるか、ということでもあります。

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三体 II 黒暗森林

面壁者から猜疑連鎖 暗黒の森、そして宇宙に愛はあるか

三体シリーズ II 黒暗森林。Audibleで聴きました。上下で30時間と長丁場だが毎日のウォーキングと電車、そして後半はあまりに面白くて結末に向かって一気に聴いてしまった。

ネタバレにならないように書くと未読の人にはわけわからない感じかも・・

前半は数百年後の三体人の地球襲来にそなえて、地球人の特性である「嘘をついたり、真実をいわずにだんまりを決め込んだり(三体人のコミュニケーション手段では、思考が共有されるためそれができない)する」ことを利用した面壁者作戦が発動。選ばれた面壁者の作戦と挫折の物語が延々と続きやや退屈。主人公ともいうべき、ルオ・ジーの架空の恋が現実化するなどロマンス要素もあり。200年の冬眠でいよいよ、三体文明からの探査機(「水滴」)が地球に近づく時代に突入。

そこから地球側の宇宙艦隊がほぼ全滅する圧巻のシーンを越えて、残った数隻の相互反応によるつぶし合いから「猜疑連鎖」というコンセプトが提示される。「猜疑連鎖」という視点で見ると宇宙は「暗黒の森」であること、そして「宇宙が暗黒の森」であることを逆手にとっての最後の逆転劇。愛がある文明だったから・・・と大団円。

満喫しました。さすが中国!「三国志」や「水滸伝」の国ですよ。


 

思えば遠くにオブスクラ

熱血ではなく、淡々とヨーロッパで仕事して暮らす若者たち

三連休なのに台風で外にでられずKindleで漫画をよむ、その②

28歳のフリー・カメラマン(動画撮影がメイン)がアパートが火事で焼失し、まあそんなリキむこともなくワーキングホリデーでドイツに行って暮らす。ヨーロッパには同じような感じで暮らしている日本人の若者がけっこういるようだ(作者の靴下ぬぎ子さんもそうらしい)。で、仕事は?と思うが、日本の会社の依頼で動画撮影して編集してネットで送るという、まさにテレワーク。ルームメイトは同じように日本からの依頼でゲームなどの音響素材を制作する。ああ、そんな暮らし方があるんだな、手に職があってそれがネット経由で発揮できるのであればどこの国でも暮らせるということになる。

自分が若いころには、留学や出張で欧米に行くときはなんだかリキんでいたことを思い出し、今どきの若者のライトな感じにあこがれてみたり。

登場人物がほぼ女性ではあるが、いろいろこだわり(こじらせ?)があり、平成ー令和っぽい。4分の1ほどならwebで読めます。

ルックバック

単純に面白いと思ったが、いろいろ論点がある漫画だった

三連休なのに台風で動けずKindleで漫画をよむ、その①

漫画家を目指す二人の女の子のビルドゥングス・ロマン(成長物語)でもあるのだが、途中で片方の女の子が通り魔的な殺人の被害者になる。で、嘆き悲しむところからいったん時間が戻ってパラレルワールド的に別の生き方をしていたら・・・的な流れがあって、最終的に切ないもとの世界に戻る。150ページほどの漫画なのに、この複雑な流れがきれいに収まっている。二つの世界をつなぐ4コマ漫画のスリップの使い方もみごと。

いろいろ論点があったらしいというのは

  • 全体の流れがタランティーノの映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(観ていないのでこれから観る)へのオマージュらしい。最終コマにDVDのパッケージがちょこっと描かれている。
  • 通り魔的殺人者の描き方に対して斎藤環(精神科医)がネットでモノ申して修正されたらしい(原版はどうだったのか今ではわからない)。
  • クリエイターが理不尽に殺され、殺人者の動機が自分のアイデアをパクられたという思い込みだということで、京都アニメーションの事件を織り込むことへの賛否。

まあ、興味ある方は下のリンク先を読んでみてください。

世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち

日本の膨大な赤字国債財政の破綻に向けて私は何に賭けたらいいのか?

2007年に起こったリーマン・ショックというかサブプライム・ローン債破綻の全貌と、その中で、破綻を予見し逆張りすることで巨万の富を得た4人の物語。4人といっても3人のヘッジファンド主催者と1人のドイツ銀行トレーダーで、4人組というわけではなく、それぞれが独自に破綻を予測して行動していた。

「マネー・ボール」で有名な著者のマイケル・ルイスは、20代にソロモン・ブラザーズで債権トレーダーをやっていて、「ライアーズ・ポーカー」という内幕物でデビューし作家業に転向したらしい。「ライアーズ・ポーカー」でテーマにしたウォール街の投資銀行の無茶苦茶がその後20年間熟成して大爆発を起こしたのだから、まあまさにリーマン・ショックこそルイスが書くべき物語だったわけ。タイトルが直接的でないので損をしている感じはあるが、あの事件のドキュメンタリーとしては秀逸なものになっている。

サブプライム・ローン債やそれをまとめたCDO、CDOが破綻した時の保険を商品化したCDSと、仕組みは一般人にはやや難解なのだが藤沢数希氏の巻末解説が秀逸なのでまず、この解説を読んでから本文を読んだ方がわかりやすい。いくら金融工学的な化粧をほどこしてもそもそもの住宅ローンの貸倒率が想定を超えれば破綻するのは当たり前。

この本を映画化した「マネー・ショート」と、違う角度からこの事件を見る「リーマン・ブラザーズ最後の4日間」も併せて見たが、やはり原作と解説を読んでいろいろ理解していないとわかりにくいと思う。

藤沢数希氏が巻末解説で書く「日本の膨大な赤字国債財政の破綻」が来たときいったいどうなるのか、それが誰にもわからないことなのか、どういう準備をすればいいのかさっぱりわからないのがとにかく不安になる・・・

 

バレット博士の脳科学教室 7½章

解剖学的脳科学とは一線を画す、やわらか頭の脳科学

脳科学本といえばニューロンやシナプスの微細構造が云々というパターンや、人工知能とからめて云々というパターンが多くて、どちらも何か脳の本質からはずれているような気がしてならなかった。

そんな時、ふと手に取ってみたこの「バレット博士の脳科学教室 7½章」、これはまさにコペルニクス的転回というぐらい腑に落ちる本だった。

脳をいろいろ分解して考えるのではなく、脳全体の機能はなにか、そしてそれを実現するために脳全体で何をしているか、という具合に全体でざっくりと考えてみる、これがポイント。

脳全体の機能は、Lesson ½にあるように身体全体を維持するための予算管理というか、インプットとアウトプットの調整管理。それがどう実現されているかというと、脳全体が可塑性のあるネットワークを形成し、脳の外からの刺激によってネットワークが作り出され、チューニングされ、強化されたり、減弱する。刺激されることによって自己変革しながら刺激応答できるアンプとでも言おうか。

自分の頭の中にあるのは、これまで受けてきた刺激、その蓄積、さらにチューニングによって作り上げられたネットワークの固まりなのだと。

訳者あとがきに内容がきれいにまとめられている。さらにそれをアブリッジすると・・

  • Lesson ½ 脳は考えるためにあるのではない
    脳は身体のエネルギーを効率的に利用して生き残りを図る=身体予算を管理する)ために進化してきた。「考える」力は結果的に生じた副産物
  • Lesson 1 あなたの脳は(3つではなく)ひとつだ
    大脳辺縁系や植物的脳と皮質脳を対立的に考える三位一体脳説の誤りを指摘し、脳は1つのネットワークであることを説く。
  • Lesson 2 脳はネットワークである
    脳はまさに「ところどころにハブを配置した効率的航空ネットワーク」に例えられる高次元ネットワークにほかならない。
  • Lesson 3 小さな脳は外界にあわせて配線する
    ネットワークの配線は出生時の基本ネットワークの上に乳幼児期に外界(おもに親)と緊密に接することで、チューニングやプルーニング(pruning=不要部分の剪定)が行われて作られていく。
    使うことでネットワークができる。ルーマニアのほったらかし乳児が発達障害児になったという事例は怖い。(日本で最近一般化している乳幼児を保育園やこども園に預けてしまう育児法は、子供の脳の発達上はかなり怖い話かもしれない)
  • Lesson 4 脳は(ほぼ)すべての行動を予測する
    脳は経験によってもチューニングやプルーニングを続けていく。何か行動を起こす場合も脳の中では過去の蓄積から行動前に(意識されない)予測がなされている。うどんを食べる前に「熱い」と予測して口のなかは「熱い」に備えている。
    机上の鉛筆を手に持つときロボットは位置を認識して拾い上げるが、人間はすでに鉛筆をもって書くところを無意識に予測しつつ拾いながらグリップして紙の上に運ぶという一連の動作を無意識にやる。この「無意識の予測」はもっとよく利用できる可能性がある。
  • Lesson 5 あなたの脳はひそかに他人の脳と協調する
    乳幼児期を過ぎても、脳は他者とのかかわりのなかで主に言語によりチューニングやプルーニングを繰り返している。自由と相互依存の問題はある。
  • Lesson 6 脳が生む心の種類はひとつではない
    脳のネットワークが心や気分をも生み出す。快と不快、活発と不活発などの気分は身体のシグナルとして脳のネットワークに還元され気分を変調する。
  • Lesson 7 脳は現実を生み出す
    脳はチューニングされプルーニングされたネットワークによって、予測を行い身体行動を起こし、その結果をまた経験としてネットワークをリニューアルしていく。その繰り返しの中で、脳が今わたしの眼前に広がる社会的現実を生み出していった。脳が機能として発達させていった、創造性・コミュニケーション・模倣・協力・圧縮の能力が特に重要。