El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

がん「エセ医療」の罠

ひどい・・・、ひどすぎる!

国民皆保険ということで誰でも低い負担でほぼ均一な医療が受けられる国、ニッポン。しかし、そんな状況も一歩、踏み外せば深い闇が広がっている。というのは、日本の医療行為の正当性・均一性がある程度保証されている根源は、そうした健康保険制度による監視体制があるから。

しかし、国民の多くはそれを知らないで、医師がちゃんとした医療を行うだけの法律でもあるくらいに思っている。しかし、そんな法律は存在しない。もちろん、傷つけるとか命を縮めるような健康への害が明らかなことを医療の名のもとに行えば、法律に違反するわけだが、それは傷害罪であったり、過失致死罪であったりと刑法の範疇。
- 逆に言えば、害にならない、あるいは毒にも薬にもならない医療行為を行ったとしても、健康保険と関わりなく、自費診療でやる分には、医師と患者の合意さえあればほぼなんでもOK。そういう健康保険外の医療行為を自由診療といい、その代表が美容整形や医療脱毛だった。

そして、今、自由診療のドル箱になっているのが「がん免疫療法」を中心としたあやしい、エビデンスのないがん治療。

がん免疫療法は、かつては次世代のがん治療と期待され、1990年代から2000年代にかけてのまさに私が医師になったころには、大学病院などで数多くの研究が行われていた。結局、免疫細胞療法は臨床試験で有効性が立証できず、保険診療として認められなかった。そして、がんには効かないというエビデンスだけが残ったのである。そこに医師人生をかけてしまった同僚もいるので、他人事とも思えない。

そんな、あやしいがん治療が跋扈していることは、たとえば女優(〇島なおみ)や歌舞伎役者の妻が不自然ながん死を遂げたときに報道されてきた。ところが、インターネット検索が当たり前の時代になって検索エンジンがヒットすることで多くの末期がん患者がこのあやしいがん免疫療法に取り込まれ、藁をもつかむ思いで、命ばかりか大金を失う事態が広がっている。

この本は、そうしたあやしいがん免疫療法を医師名や医療機関名を実名でバンバン紹介(告発?)しているかなりすごい本。もちろん、そうした医師や医療機関からの反発も強いのだが、その反発さえもが記録されているのがハンパない。
- 驚くのは、個人経営のクリニックならともかく大学病院がからんでいるケースもあることで、特に金沢大学付属病院の敷地内(!)にある金沢先進医学センターの話は、まさに事実は小説より奇なりです。国立大学の教授や付属病院長が退官後にこんなことしているなんて・・・と驚くばかり。ぜひ一読されたし。