皮膚のことを一通り知るには良い、ただし著者は美容系?かも
皮膚科というのは他科の医師にとってとっつきにくいところがある。本書の著者はドイツではマスコミにもよく登場する女性皮膚科医らしく、本書も最後まで読むとスキンケアに対する彼女の考え方、そしてそれに基づいた食事や洗顔など、美容系の話になっていくのだが・・・前半の1-5章では、一階が表皮、地下一階と二階の間の基底膜、地下二階の真皮、地下三階の皮下組織と章立てして、それぞれの性質・構造・疾患を説明してくれる。
地下一階(表皮)では、皮膚面におけるマイクロバイオーム、メラノサイトによるメラニンの供給。日光中の可視光線・紫外線・赤外線それぞれが意味をもつ。可視光線によるビタミンD生成、紫外線による発がん、赤外線による体温上昇、緯度による太陽光の違いが、これらのメカニズムを通して肌の色を作ってきたことをあらためて認識させられた。
地下二階(真皮)では、まずは神経終末や数々のセンサー(マイスネル小体・ルフィニ正体etc.)を通して皮膚は脳の一部でもある(2021年のノーベル医学生理学賞)。そして、皮膚腺(汗腺・皮脂腺・アポクリン腺)。それぞれの腺に物語がある。特にアポクリン腺が出すにおい物質と求愛行動の関係は面白い。
地下三階(皮下組織)ではセルライト。セルライトの悩みは女性特有、それは脂肪組織の周りの線維性結合組織の方向が男女で違うから。
中盤の6-8章は年齢に従って生じる皮膚の問題ーニキビ、日焼け、老化。日焼けサロンの危険性を強く訴えているのが印象的。一方で、老化に対するボトックスとヒアルロン酸の注入については、手技も含めてかなり詳しく解説してあり、十分な知識を得られる、日本でもよくあるその手の美容系の皮膚科医なのかもしれない(YouTubeでYael Adlerと検索すると立派なチャンネルがある)。
9-10章は性感染症。性感染症を皮膚科で診るというのはドイツ由来なのだろうか。11章以降は皮膚の栄養学、スキンケアなど著者の真骨頂部分なのだろう。
読み終えてみると、皮膚科雑学から書き起こしスキンケアや美容や性感染症と、おそらくこんな形でドイツではマスコミやネットで発信し続けている皮膚科医なのだろう。それを本にまとめたら評判が良くて、日本語訳が出版された・・・とそんなところだろうか。帯に「ドイツで20万部」とあるが、それがすごいことなのかよくわからない。