El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

インド残酷物語

女性のフィールドワーク研究者の書いたインドの今。

インドのことがそもそもほとんどわかっていなかった。イメージとしての人が多く混沌とした感じは昔から持っていたが、具体的な知識は高校世界史レベルでしかなかった。カースト制とか不可触賤民とか。

ここ10年ほどは街のカレー屋さんにも北インドや南インドのさまざまなインド人がやっているところが増えてきて、そういう店のインド人はやたらと愛そうがよい。アメリカのテレビドラマでもインド系の俳優が増え、インド系の医師が書いた本を読む機会も増えた。たぶん、そうした接点があるインド人はハイクラスのインド人だろうとは思っていた。本当のインドは、インドにいって中にはいって生活してみなけりゃわからない・・。

それを実行したのが著者の池亀彩さん(現在52歳、京都大学准教授)。研究者ではあるが、この新書は構成も読みやすく、それでいてインド理解のポイントがきっちり書かれている。具体的な名誉殺人(花婿殺し)や、iピルによる避妊、雇った家政婦インド人一家の暮らしぶり、雇った運転手の上昇志向などのドキュメンタリーをもとに、要所要所にたくみな解説。

①カースト・・・これは一般日本人の理解とはかなり違う印象。ジャーティーという職能・地縁による共同体的集団があり、それぞれのジャーティーがヴァルナ(バラモン・クシャトリア・バイシャ・スードラ)のどれにあたるかを闘争するという二段構え。浄・不浄の強い意識。

②マンダルー・・・留保制度。低いカーストやカースト外から一定の人数を公務員にやとう、上級学校に入れるという仕組み。差別解消のために実施されている。

③グル・・・政府とは別に、実際に精神生活を支配し、もめごとの解決などを担うのがグル。著者の興味の中心にグルがありそう。

④インドでやっていくためには「腐敗(汚職)は必要」・・・本書で挙げられていたリストから抜粋

  • すべては交渉可能である(交渉なしには何も始まらない)
  • すべての規則は(腐敗・汚職を生み出す)好機となる。
  • 決してイエスといわないこと。決してノーとも言わないこと。思いがけない好機はその間にある。
  • 腐敗とは社会における複数の扉のこと。
  • 腐敗とは是認されていない専門知識である。

⑤フォーマル・セクターとインフォーマル・セクター・・・その狭間のグレーを力強く生き抜くインド人たち。

惜しむらくは、フィールドが下層のカーストメインで、例えばモディ首相のような現代インドを動かす層については知ることができない。まだまだ、奥が深いインド。