El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

Amazon Review

平治の乱の謎を解く

他説の無理には厳しく、自説の無理には寛容 平治の乱の謎を解く 頼朝が暴いた「完全犯罪」 (文春新書) 作者:桃崎 有一郎 文藝春秋 Amazon 「平治の乱」で一冊書けるの?!と思ったが、そういえば一年前に読んだ「双調平家物語(10)」は一冊まるごと平治の乱…

睡眠の科学 改訂新版

寝苦しい夜に睡眠の科学を 睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか (ブルーバックス) 作者:櫻井武 講談社 Amazon そんな基礎研究なんて役に立つのか・・・と思っているような分野から意外な発見があり医療の常識が塗り替えられるようなことが起…

ある行旅死亡人の物語

うーん、不完全燃焼 ある行旅死亡人の物語 作者:武田 惇志,伊藤 亜衣 毎日新聞出版 Amazon 博多駅の書店で買って新神戸に着くまでに読んでしまった。2020年4月、尼崎のとあるアパートで孤独死した高齢女性と残された現金3400万円。共同通信の記者2人がその身…

トラスト―絆/わが人生/追憶の記/未来―

ひき込まれる・・けれど トラスト―絆/わが人生/追憶の記/未来― 作者:エルナン・ディアズ 早川書房 Amazon ある(架空の)投資家の人生を4つの視点から書かれた文章で再構成。4つの文章とは、第三者が書いた伝記風小説「絆」・自伝草稿「わが人生」・自伝を口…

人体最強の臓器 皮膚のふしぎ

免疫臓器としての皮膚については詳しい 人体最強の臓器 皮膚のふしぎ 最新科学でわかった万能性 (ブルーバックス) 作者:椛島 健治 講談社 Amazon 著者は1970年生まれ、京都大学医学部皮膚科の教授。皮膚免疫が専門ということで、アトピーの部分は読みごたえ…

オマージュ to 中森明菜

同時代を生きる オマージュ〈賛歌〉 to 中森明菜 作者:島田雄三,濱口英樹 シンコーミュージック Amazon 年齢は、自分から見て、中森明菜が8こ下、松田聖子が5こ下。聖子は1980年、大学4年の時にデビュー。明菜は1982年、大学の最終学年の時にデビュー。なの…

イシューからはじめよ Audible

たまにはビジネス書も聴いてみたい イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」 作者:安宅和人 英治出版 Amazon 1月に新しい職場にきて6か月、仕事のほとんどが日々発生するトラブルの問題解決であることがわかってきた。問題解決のプロとしてやり…

認知症のブレインサイエンスとケア

無責任なトンデモ医療本 認知症のブレインサイエンスとケア ―アルツハイマー認知症は抗ウイルス薬で予防できる― 作者:松下哲 かまくら春秋社 Amazon 副題の「アルツハイマー認知症は抗ウイルス薬で予防できるー」に惹かれて読んでみたが、エビデンスのはっき…

プロジェクト・ヘイル・メアリー(上)

アメリカSFから中国「三体」へのカウンター プロジェクト・ヘイル・メアリー 上 作者:アンディ・ウィアー,小野田 和子 Audible Amazon Audibleで聴きました。 アストロファージに異星人、サイエンス好きにはたまらない。 エネルギーを質量に、質量をエネル…

資本主義だけ残った

共産主義の新解釈に説得力あり 資本主義だけ残った――世界を制するシステムの未来 作者:ブランコ・ミラノヴィッチ みすず書房 Amazon 一年以上の間、積読状態になっていた本。現実世界の変化が激しくて、ぼんやりしているとこの本に書かれた(きわめて刺激的…

名称未設定ファイル

品田遊を読んで、ネット・ネイティブではない自分を思う 名称未設定ファイル 作者:品田遊 コルク Amazon ネットにおける誹謗中傷・リコメンド機能・電子書籍端末・機械学習・仮想世界・Twitter世界・ソーシャルRPG・人工知能・・・・ 今どきのこうしたネタを…

杉本博司自伝 影老日記

絢爛たる成功者にも見えるが・・・ 杉本博司自伝 影老日記 作者:杉本 博司 新潮社 Amazon 写真をベースにした現代美術家ーそういうくくりでは捉えきれないほど多方面に活躍している杉本博司氏(現在75歳)の自伝、日経に30回にわたって連載した「私の履歴書…

時間の終わりまで

読み方によっては面白い。全部読み通すのはやや苦痛。 時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙 作者:ブライアン・グリーン 講談社 Amazon 11章500ページ超だが、下記のように4つのパートに分けられる(と、思う)。 ①前提となる知識ーエントロピーで…

脱定年幻想

焼き直し出版に注意 脱定年幻想 (MdN新書) 作者:勢古浩爾 エムディエヌコーポレーション Amazon 「本書は2017年に刊行した『60歳からの「しばられない」生き方』(KKベストセラーズ)を加筆訂正のうえ解題し、新書化したものです。随所に時事的話題が出てき…

統合失調症の一族

統合失調症:リアリティで圧巻の500ページ 統合失調症の一族 遺伝か、環境か 作者:ロバート コルカー 早川書房 Amazon 10男2女の子供たちを得たギャルビン家、8番目くらいが私と同年生まれくらいなのでほぼ同時代の実話だ。 子どもたちが小さい頃の子だくさ…

イニシエーション・ラブ

「どんでん返し」というよりは「じわりとひっくり返される」快感 イニシエーション・ラブ (文春文庫) 作者:乾 くるみ 文藝春秋 Amazon 「どんでん返し」小説の代表みたいに言われる「イニシエーション・ラブ」を読んでみた。どんでん返しとはいかないものの…

おもちゃ 河井案里との対話

延岡人の自分探しが権力闘争のおもちゃにされた? おもちゃ 河井案里との対話 作者:常井 健一 文藝春秋 Amazon 選挙で現金をあからさまに配るほうも配る方だが、もらう方も普通にもらっているわけで、それがそこまで違和感のないことだというのが地方政治(…

現代カタストロフ論

50年たつと過去の過ちを忘れてしまうだけ 現代カタストロフ論: 経済と生命の周期を解き明かす (岩波新書 新赤版 1953) 作者:金子 勝,児玉 龍彦 岩波書店 Amazon カタストロフ理論は1970年代~80年代に小さなブームがあったが、結局のところこの本がそうであ…

忘れる脳力

記憶と忘却のメカニズムーけっこうためになる! 忘れる脳力 脳寿命を伸ばすにはどんどん忘れなさい (朝日新書) 作者:岩立 康男 朝日新聞出版 Amazon 怪しい脳科学本と思ってしまいそうなタイトルだが、千葉大の脳外科の教授で脳の基礎研究の実績も十分な岩立…

破局 Audible

「内面のない男」の話 破局 作者:遠野 遥 Audible Amazon Audibleで聴きました。平成生まれの作家による初の芥川賞受賞という作品(2020)。 主人公・陽介は慶応の4年生でラグビー部で鍛え上げた肉体をもち、勉強もそこそこでき、同級生の彼女・麻衣子がいて…

本心

2040年の日本のリアルが感じられる 本心 作者:平野啓一郎 コルク Amazon 2022年に読み続けてきた平野啓一郎、彼の目下のところの最新長編「本心」(2021年5月刊行)を元旦から一気読み。平野啓一郎は2022は三島由紀夫の長大な評論にかかりきりだったようなの…

なりすまし(レビューその2)

「なりすまし」はさらに深い「アメリカ精神医療史」 なりすまし――正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験 亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ 作者:スザンナ・キャハラン 亜紀書房 Amazon さて、レビューその1を前提に「なりすまし」そのもののレビュ…

京都不案内

「京都はだれもが苦手」、そこから一歩進むには? 京都不案内 作者:森 まゆみ 世界思想社 Amazon せっかく関西に住んでいるのだからと、定期的に京都や奈良にでかけて寺を巡ったりしている。奈良は友人が住んでいたり、馴染みの呑み屋ができたりしたのだが、…

がんは裏切る細胞である 進化生物学から治療戦略へ

目からウロコ! 進化生物学者が「がん」を語ると腑に落ちることばかり がんは裏切る細胞である――進化生物学から治療戦略へ 作者:アシーナ・アクティピス みすず書房 Amazon 進化生物学者が「がん」について考えると現在の治療(特に「がん遺伝子パネル検査」…

小田嶋隆のコラムの向こう側

小田嶋氏の死後出版のコラム集 小田嶋隆のコラムの向こう側 作者:小田嶋隆 ミシマ社 Amazon コロナ禍やウクライナ危機の中で病死(2022年6月24日死去 享年65歳)した小田嶋隆氏が日経電子版に連載していた「ア・ピース・オブ・警句」2020年5月1日~2022年4月…

悪いがん治療

抗体医薬が巻き起こした「がん薬物治療」の混乱 悪いがん治療 作者:ヴィナイヤク・プラサード 晶文社 Amazon がん薬物治療の政策的な混迷をさまざまな視点から描いて非常に有益、ただし内容が高度なので医師以外の読者が理解することはかなり難しそう・・・…

2016年の週刊文春

もはや日本の正義を守るのは文春砲しかない! 2016年の週刊文春 作者:柳澤 健 光文社 Amazon 文春でたどる、昭和ー平成史。「田中角栄研究」「日本共産党の研究」「疑惑の銃弾(三浦和義事件)」、オウム真理教に酒鬼薔薇・・・500ページ一気読みだ。本誌「…

生きて、食べて、眠る部屋があって、ひとりになる時間があればそれでじゅうぶん 泡 作者:松家 仁之 集英社 Amazon 適応障害(?)ぽい、不登校男子高校生「薫」が、紀伊半島のどこか(たぶん白浜温泉)でジャズバー(&喫茶)をやっている大叔父「兼定」のと…

自分がおじいさんになるということ

2040年問題に向けて粛々と歳を重ねる 自分がおじいさんになるということ 作者:勢古 浩爾 草思社 Amazon 10年先行老人、勢古浩爾氏の最新老後エッセー集。この手の定年本、定年後本、老後本は買わないと思っていてもつい油断すると買ってしまう。たいした内容…

ある男

過去に翻弄された大人たち、未来を生きようとする子供たち ある男 (コルク) 作者:平野啓一郎 コルク Amazon 「マチネの終わりに」「ある男」「本心」と「分人主義後期三部作」らしい。 「マチネの終わりに」が良かったので期待したが、他人どうしが戸籍を交…