El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

人体最強の臓器 皮膚のふしぎ

免疫臓器としての皮膚については詳しい

著者は1970年生まれ、京都大学医学部皮膚科の教授。皮膚免疫が専門ということで、アトピーの部分は読みごたえがある。それ以外の部分はまあ一般的。皮膚科領域も分子生物学・分子免疫学が研究の主体。免疫の一般論にもかなりページが割かれているのでその部分はやや冗漫に感じる。

アトピー性皮膚炎の増加という点から、「衛生仮説」(=きれいすぎる環境が過敏な体を作ってしまう)が掘り下げられる。さらに「アレルギー・マーチ」=乳児期に発症するアトピーに始まって、喘息、鼻炎、食物アレルギーと一生ついてまわるようなアレルギー疾患の概念。

特に、「二重抗原曝露仮説」が要注目。例えばピーナッツアレルギーは皮膚を通してのピーナッツ成分や殻への暴露が免疫反応を引き起こし、経口のピーナッツ摂取は逆に免疫寛容を引き起こすのではないか。まさに、皮膚は体内の一部であるが、腸管内部は実は体外(ゆえに腸内細菌あり)。アレルギーを恐れて食べさせないことがリスクなのかもしれない。

茶のしずく石鹸事件」も興味深い実例。

著者はアトピー性皮膚炎の生物学的製剤治療薬「デルゴシチニブ軟膏(コレクチム®軟膏)の開発者であり、かゆみを抑える「ネモリズマブ」の開発にも関わっている。医学部時代からかなりアクティブで研究と臨床を両立させてきたことを披歴する番外のパートも爽やかで面白い。免疫臓器としての皮膚という見地にたてばなかなか面白い本。

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