「内面のない男」の話
Audibleで聴きました。平成生まれの作家による初の芥川賞受賞という作品(2020)。
主人公・陽介は慶応の4年生でラグビー部で鍛え上げた肉体をもち、勉強もそこそこでき、同級生の彼女・麻衣子がいて、その上1年生の灯(あかり)ともつきあうようになり・・・という、いわゆるリア充の男。
ところが、彼にはまったく内面がない(ように見える)。自分やパートナーの行動を心の中で客観描写し続けるが、その描写に主観的な考えはない。たとえば「セックスをした」「射精をした」と割と頻繁に描写するが、その時の自分の心理にはいっさい踏みこまない。
出身高校のラグビー部のコーチをしているが、そこにも「強くなって勝つ」という目的に向かう考えしかない。
自分の心理に踏み込まないというよりは、内面がないから独自の心理状態がないように見える。そういう「リア充なれど心の無い人間」というものを描いてみたかったんだと思う。
そういう内面のない人間はたしかに一定の確率で存在しているが、なかなかわかりにくい。朗読も意図的にか投げやりな読み方で、内面の無い感じをよくだしていた。・・・しかし、こうしてレビューを書いた後で考える・・・「はたして自分自身には内面はあるのだろうか?」