El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

生きて、食べて、眠る部屋があって、ひとりになる時間があればそれでじゅうぶん

泡

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適応障害(?)ぽい、不登校男子高校生「薫」が、紀伊半島のどこか(たぶん白浜温泉)でジャズバー(&喫茶)をやっている大叔父「兼定」のところで暮らし、ほんの少しだけ元気になる。

そのジャズバー(&喫茶)「オーブフ(ロシア語で靴の意)」には少し前から大叔父に拾われるようにして働いて、店を切り盛りする青年「岡田」がいて、岡田との関係の中で「薫」が少しだけ大人になる。

大叔父の兼定はシベリア抑留者で帰国後は東京の実家になじめず白浜に流れ着いて「オーブフ」を始めた。シベリア時代の記憶の断章がところどころに挟み込まれるが、その中でも、和歌山出身の「緒方」(雰囲気はかなり岡田に似ている)との交流と、自殺めいた緒方の死。

みんなが屈託を抱えて、それでも絶望することもなく白浜のジャズバー(&喫茶)で交錯しひと夏が終わっていく。

「泡」は白浜の海岸に寄せる波の先端のようでもあるが、はかないけれど消えては生まれる人生の思いということなのかな・・・

小説全体もあわあわとしていてとりとめがないのだが、そこもまた味わいなのか。前作「光の犬」あたりとはずいぶん違うタッチの小説。ちょっとものたりないが続編もありか?

https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/awa/

ヘルベルト・ブロムシュテット & ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の"交響曲 第40番 ト短調 K.550 II- Andante"をApple Musicで