El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

統合失調症の一族

統合失調症:リアリティで圧巻の500ページ

10男2女の子供たちを得たギャルビン家、8番目くらいが私と同年生まれくらいなのでほぼ同時代の実話だ。

子どもたちが小さい頃の子だくさんで幸福そうな写真、しかしそこから思春期になっていくにしたがって男の子10人のうちの6人が次々と精神の異常をきたし統合失調症と診断されていく。

天使のような子供たちが、病気によってまるで悪魔のような行動をとるようになっていく過程、そしてそれが次から次へと・・・平静を装うかのようにすべてを支え続ける母親、11番目と12番目に生まれた女の子であるマーガレットとメアリーの翻弄される人生。

全45章は、それぞれの子供たちのトピックを描きながら、5-6章ごとに医学としての統合失調症の研究の歴史を織り込む、そしてその研究がギャルビン家を対象にすることで混然一体となって進んでいく。

精神の異常をきたした息子たちはあっという間に生活が立ち行かなくなり、結婚は破綻し、無理心中あり、薬剤による死ありで、もう本当に大変。研究も成果は出しながらも、特効薬にはなかなかいたらず一進一退。

そして、後半はマーガレットとメアリー(リンジー)が主役に。成長し結婚し、一家と距離をおくマーガレット、かっての母親のように一家を支えようとするリンジー。まさに患者目線そして患者の家族目線で見た統合失調症一族の歴史だ。

研究面でも遺伝子工学の進歩によってギャルビン家における遺伝子異常(SHANK2)は明らかになるが治療法につながるところまではなかなかいかない―こちらは遺伝重視。一方で、リンジーが自分んの子供たちの発病に予防的に介入―こちらは環境重視。そうした遺伝か環境かという議論も踏まえながら、リンジーの娘ケイトが統合失調症の研究者を目指すところまでが描かれる。

この本はマーガレットとメアリーが自分たちの家族の歴史を世間に知ってもらおう、記録として残そうということで、全面的に協力して作られた。集められた膨大な資料や個人的記録から生み出された500ページはリアリティにあふれたドラマ。

ドラマに没頭しながらも、統合失調症の疾患概念、その歴史的変遷、治療の変遷などを教えられる。著者の筆力に脱帽。