El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(123)ー60歳すぎて臨床にもどる!ー

https://uuw.tokyo/book-guide/

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第123回目のテーマは「医師の転職」。保険業界に働く医師は臨床の現場を離れて、あるいは逃れて来たというパターンが多いと思いますが、さていざ定年が近くなってくると、定年のそのあとは?と考えたときに「臨床にもどる」という選択肢も当然あるわけです。

精神科医で「こころの問題」でマスコミに登場することが多かった香山リカさん。立教大学の教授になっていたので、もう医者はやらないんだろうなあと思っていたら大間違い。ここ数年お見かけしないと思っていたら、180度の方向転換して精神科医にもどる・・・というよりもさらに90度くらい転換して、なんと北海道で総合診療医を始めているらしいんです。

その顛末、それに自身が医者になったころの思い出話などをからめて一冊の本にしました。それがこの本「61歳で大学教授やめて、北海道で『へき地のお医者さん』はじめました」。

北海道勇払郡むかわ町という"へき地"で町立診療所の医師をやっているんですね。なぜそういう選択をしたのか、なぜ北海道のへき地なのか、それになぜ60歳なのか・・・そのすべてが本書で明かされます。きっかけは、誰にもある、今ここではないどこかで、今と違う何かを・・・という部分ももちろんあるようです―いわゆる「中年の危機」。香山リカさんはそんな年ごろにおいて、いくつかのきっかけ(母の死や、アフガニスタンでの中村哲先生の死)から「私だけのうのうと生きている」との気持ちに。さらにコロナもあってじわじわと臨床への回帰心が芽生え始めます。

体を鍛えたり、失効していた運転免許を取り直したり(へき地には車が必須)、そして何よりもアップデートした医療知識を得るために母校(東京医大)での研修を受けたり。教授業務で多忙な中にそうした新たな挑戦のための準備を織り交ぜて、少しずつ少しずつ準備を整えて行きます。またなぜ北海道のへき地なのかという話では、その地で見つかった恐竜の化石の話と理系好きの高校生だった自分の過去がシンクロして、そのころから閉じ込めていた熱い思いを再び発見するにいたります。

そしてついに北海道に赴任し、東京との二拠点生活をはじめた香山さん。好きなことに没頭しながら、町民たちとも濃密にかかわる日々の始まり始まり-というところまでの話が描かれます。香山さんいわく「来年の自分がどうなるか、自分でもわからない。そんな楽しくてぜいたくなことがあるだろうか」という言葉にもすがすがしいものが・・・・。

と言いながら・・・これを書いている査定職人ホンタナも一年前に65歳の定年をむかえました。そして一念発起し、いまは老健施設長として臨床の世界にふたたび足を突っ込んでいます―ちょっとだけすがすがしい!?

そしたら長年続けてきたブックレビューが仕事にも役に立つんですね。それは本当にびっくりです。そういった臨床ネタも含めてまだまだブックガイド続けていきますよ!(元査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2024年4月)