El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

Amazon Review

君の顔では泣けない

一気に読ませる、入れ替わり人生論・カフカ的 君の顔では泣けない (角川書店単行本) 作者:君嶋 彼方 KADOKAWA Amazon 映画「転校生」でひとつのジャンル化した「男女の入れ替わり」というモチーフだが、入れ替わった男女(坂下陸・水村まなみ)がもとに戻れ…

ツボちゃんの話 夫・坪内祐三

女たちに描かれる坪内祐三(去る者は日日に疎し・・・) ツボちゃんの話: 夫・坪内祐三 作者:佐久間 文子 新潮社 Amazon 2020年1月に病死した坪内祐三との生活を妻である佐久間文子が一冊の本にしたもの。坪内祐三の伝記と言ってもよく、これまで出版されて…

<弱者>の帝国 ヨーロッパ拡大の実態と新世界秩序の創造

なぜ西洋は「勃興」し、東洋は「没落」したのか? 〈弱者〉の帝国-ヨーロッパ拡大の実態と新世界秩序の創造 (単行本) 作者:ジェイソン・C・シャーマン 中央公論新社 Amazon 現在まで続くヨーロッパ(含むアメリカ)の世界覇権は歴史の中の一つのフェーズに過…

つげ義春 名作原画とフランス紀行

どんな場合でも、逃げるが勝ち(帯にあるつげ義春氏の名言) つげ義春 名作原画とフランス紀行 (とんぼの本) 作者:つげ 義春,つげ 正助,浅川 満寛 新潮社 Amazon つげ義春の漫画はなぜか定期的に読みなおしたくなる。そんな、文学的漫画家・つげ義春氏は作品…

遺伝子とは何か?

地味なタイトルだが、けっこう新しい! 遺伝子とは何か? 現代生命科学の新たな謎 (ブルーバックス) 作者:中屋敷均 講談社 Amazon もちろん「遺伝子とはDNAです」なんて単純な話ではない。歴史的な発見の経緯からDNAがあって必要に応じてmRNAが作られmRNAか…

ネオウイルス学

ネオウイルス学とは ネオウイルス学 (集英社新書) 作者:岩見 真吾,大場 靖子,川口 寧,佐藤 佳,澤 洋文,鈴木 信弘,高橋 英樹,朝長 啓造,中川 草,長崎 慶三,西浦 博,野田 岳志,古瀬 祐気,堀江 真行,牧野 晶子,松浦 善治,松野 啓太,村田 和義,望月 智弘,渡辺 登…

現代思想入門

どんなに生きても満足できる人生はない ってことですね 現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon 人生が変わる哲学・・・うーん、こんなことを職業にしているのか哲学者。 やさしくわかりやすく書かれているので、デリダ、ドゥルーズ、フ…

壁とともに生きる わたしと「安部公房」

いま、安部公房を読み直したいと思えるか? 壁とともに生きる わたしと「安部公房」 (NHK出版新書) 作者:ヤマザキマリ NHK出版 Amazon テルマエ・ロマエのヤマザキマリさんによる安部公房のブックガイド。異色の組み合わせとも思えるが、世界を放浪してき…

EXTRA LIFE なぜ100年間で寿命が54年も延びたのか

もっと読まれていい、具体的な寿命延長史! EXTRA LIFE なぜ100年間で寿命が54年も延びたのか 作者:スティーブン・ジョンソン 朝日新聞出版 Amazon 寿命の延び(=ゼロ歳の平均余命の延び)は乳幼児死亡率の劇的減少(20%→1-2%)で起こった。20世紀の前半ま…

ヒトはなぜ「がん」になるのか 進化が生んだ怪物

「がん遺伝子パネル検査」もしょせんは商業主義・・ ヒトはなぜ「がん」になるのか; 進化が生んだ怪物 作者:キャット・アーニー 河出書房新社 Amazon 著者のキャット・アーニーはイギリスのがん研究基金「キャンサー・リサーチUK」の科学コミュニケーション…

推し、燃ゆ(Audible)

東横キッズになっていくの? 推し、燃ゆ 作者:宇佐見 りん Audible Amazon アイドルファンの応援行動が先鋭化して「おっかけ」なんて呼ばれた時代もあったが、今はそれらを含めたトータルな言葉が「推し」。若い女性のライフスタイルの一部に「推し活動(推…

さみしいネコ

「定年後エッセー」で癒される さみしいネコ【新装版】 作者:早川良一郎 みすず書房 Amazon 定年後の生活と意見や、平凡なサラリーマン(経団連の事務局にお勤めだったようだ)時代のあれこれの思い出を、柔らかに語る随想集。早川氏は1919年生まれで1979年…

エネルギーをめぐる旅 (Audible)

エネルギーから見たサピエンス全史 エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来 作者:古舘恒介 英治出版 Amazon 「エネルギー」版のサピエンス全史。「エネルギー」を軸におくことで、リアリティが高まり、かつ知らなかった内容も多いので、サピエンス…

ボクもたまには がんになる

三谷幸喜の前立腺がん経験記 ボクもたまにはがんになる 作者:三谷 幸喜 幻冬舎 Amazon 「鎌倉殿の13人」の脚本家、三谷幸喜氏の前立腺がん闘病記。といっても、実際にがんを発見し治療していたのは「真田丸」の始めの頃らしいので5年ほど前。この本で、初め…

エドワード・ホッパー作品集

寂しいあなたの姿を描くホッパーの世界を届けます。 エドワード・ホッパー作品集 作者:江崎聡子 東京美術 Amazon 家族でファミレスに来て、みんなそれぞれのスマホをのぞき込んでいるような孤独感、それがホッパー。どの絵のどの人物も、その人そのものとい…

がん検診は、線虫のしごと

直感的には「あやしい」話と思っていたら文春砲に撃たれたが、どうなる がん検診は、線虫のしごと 精度は9割「生物診断」が命を救う (光文社新書) 作者:広津 崇亮 光文社 Amazon 微小な寄生虫である線虫の嗅覚を研究していたという著者の広津氏。線虫の嗅覚…

生命を守るしくみ オートファジー

オートファジー、ブレイクするのかまだよくわからない 生命を守るしくみ オートファジー 老化、寿命、病気を左右する精巧なメカニズム (ブルーバックス) 作者:吉森保 講談社 Amazon 2016年、オートファジーでノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典氏、その…

悪魔の細菌

超多剤耐性菌 VS ファージ 悪魔の細菌 超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦い 作者:ステファニー・ストラスディー,トーマス・パターソン,テレサ・H・バーカー 中央公論新社 Amazon 「パターソン症例」(2016)という感染症分野で有名な症例があるらしいの…

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

つかみは面白いが、次第に病的に・・・ 中国化する日本 増補版 日中「文明の衝突」一千年史 作者:與那覇 潤 文藝春秋 Amazon 中国史のキーワードの一つに「唐宋変革」というのがあり、著者が戦前の東洋史家内藤湖南の「宋代以降近世説」からの引用として ①貴…

秘密の戦争 共産主義と東欧の20世紀

苦難続きのウクライナの原点を読む 秘密の戦争:共産主義と東欧の20世紀 作者:ティモシー・スナイダー,Timothy Snyder 慶應義塾大学出版会 Amazon プーチンのロシアを批判し続ける歴史家ティモシー・スナイダ―の初期の著作が昨年末に邦訳されたもの。 彼の専…

ドイツリスク

プーチンのウクライナ侵攻で顕在化する「ドイツリスク」 ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱 (光文社新書) 作者:三好 範英 光文社 Amazon 2015年9月刊行の本だが、テーマであるドイツリスクがプーチンのウクライナ侵攻で顕在化しているので再読。 …

次なるパンデミックを回避せよ

ジビエと言えばオシャレだが、所詮はブッシュミートと同じ 次なるパンデミックを回避せよ: 環境破壊と新興感染症 (岩波科学ライブラリー 301) 作者:井田 徹治 岩波書店 Amazon 武漢でのCOVID-19発生、その根源はコウモリでさらに中間増幅動物はセンザンコウ…

プーチンの世界

いま、目の前で起こっているウクライナ危機理解には必須 プーチンの世界―「皇帝」になった工作員― 作者:フィオナ・ヒル,クリフォード・G・ガディ 新潮社 Amazon 1985年にゴルバチョフが書記長となって1989年にベルリンの壁崩壊、エリツィンによる混乱の1990…

旅する少年

「若くて旅を致さねば、年寄っての物語がない」(狂言「地蔵舞」より) 旅する少年 作者:黒川創 春陽堂書店 Amazon 小説家 黒川創さん(1961年京都伏見生まれ・刊行時60歳)が、小学校6年生から中学卒業までに実行した驚くほど多くの一人旅の記録。12歳から1…

法医学者の使命

医療事故裁判について、法医学者が語りつくす! 法医学者の使命 「人の死を生かす」ために (岩波新書 新赤版 1890) 作者:吉田 謙一 岩波書店 Amazon 著者は法医学の大学教授を退官して大阪の監察医務監になった法医学者。1953年生。この手のよくある法医学OB…

私が進化生物学者になった理由

ただの自伝ではない、人間も含めた進化生物学の入門書としても秀逸 私が進化生物学者になった理由 (岩波現代文庫 学術 440) 作者:長谷川 眞理子 岩波書店 Amazon 紀伊田辺の自然の中で育ち、ドリトル先生(井伏鱒二訳をべたほめ。確かに、ドライで直線的な文…

承久の乱

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」予習三部作 完読 承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書) 作者:坂井孝一 中央公論新社 Amazon 本書が三部作の中で最初に書かれたもので文字通り後半は「承久の乱」メイン。 前半は院政の始まりから保元・平治の乱、源…

批評の教室

北村紗衣ワールドへの(やや高齢の)普通人向け入り口 批評の教室 ──チョウのように読み、ハチのように書く (ちくま新書) 作者:北村紗衣 筑摩書房 Amazon 「批評の教室」というタイトルで、映画の批評の書き方?蓮見重彦の弟子?というイメージで手に取った…

インド残酷物語

女性のフィールドワーク研究者の書いたインドの今。 インド残酷物語 世界一たくましい民 (集英社新書) 作者:池亀彩 集英社 Amazon インドのことがそもそもほとんどわかっていなかった。イメージとしての人が多く混沌とした感じは昔から持っていたが、具体的…

ジェネリック医薬品の不都合な真実

驚愕のインド産ジェネリック薬 ジェネリック医薬品の不都合な真実 世界的ムーブメントが引き起こした功罪 作者:Katherine Eban 翔泳社 Amazon インドのジェネリック製薬業の歴史、その発端から興隆の道程、そして世界がそれを受け入れざるを得なかったわけ、…