El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

がん検診は、線虫のしごと

直感的には「あやしい」話と思っていたら文春砲に撃たれたが、どうなる

微小な寄生虫である線虫の嗅覚を研究していたという著者の広津氏。線虫の嗅覚と「がんのにおい(具体的にはがん患者の尿のにおい)」を結び付けて、線虫で「がん検診」すれば精度は9割だった、というのが本書。

この本を読むと「精度9割(87%)」は明記されていないが「陽性的中率=がんの人の尿で陽性になる率」のことのようだ。こうした検査では「陰性的中率=がんでない人の尿で陰性になる率」も重要なのはずだが、漠然と「精度9割」と出てきて、具体的な陰性的中率、偽陽性率、偽陰性率などの統計的数値はなにも書かれていない。

線虫の反応のメカニズムが「がん患者の尿のにおい」の一点張りで、具体的には尿の中の何なのかわからないし、追求した形跡もない。線虫が、がん患者の尿には近づき、健常者の尿からは遠ざかる、というのは観察された相関関係にすぎない。「がん検査」に使うからには、「がん患者の尿の特定の微量物質Aに反応して近づく」という因果関係が証明されるべき。

しかし微量物質Aが特定できたら、線虫の必要性がなくなるわけで、そういう意味ではこの線虫検査は「人智にはわからない微量物質のにおいを線虫が嗅ぎ分ける」という少しファンタジーじみた話になる。いまどきあるのか?そんな物質。本当にそんな物質があるならHPLCとかでわかるんじゃないのか。

というわけで、この検査は途中に線虫を介在させることでそうした因果推論をあいまいにしていることは否めない。広津先生には是非、そこらをはっきりさせてほしい。

頭から否定するわけではないが不明瞭な点が多く、アイデアはよかったけど現実化は無理だったというレベルの話のように思う。すでに下記のようなサイトも取り上げている。

検査にまつわるフェイクな事件と言えば「セラノス事件」・・

さらに原理を聞いただけで「あやしい」といえば、アルツハイマー薬アデュカヌマブも無理スジの薬なのではないだろうか。持ち上げた本もあったが・・