El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ネオウイルス学

ネオウイルス学とは

カバー裏の解説から

ウイルス学の世界的権威、河岡義裕を領域代表者として2016年に発足した新学術領域ネオウイルス学。従来のウイルス学は人間に害を及ぼすウイルスを主とし研究が進められてきた。だが、ウイルスには害だけでなく益を及ぼす側面もあることに注目し、人獣のみならず温泉や海、植物にも存在しているウイルスすべてを研究対象にしたのがネオウイルス学だ。また、新型コロナの次のパンデミックに備えることも含め、ウイルス研究における基礎研究の厚み、さらにウイルス学、生物学、獣医学、医学、数理学等、領域横断的研究の重要性も明らかにしている。本書はこの領域の諸研究と可能性を専門家20名が平易に解説する。

というわけで300ページの新書に20人の研究者へのインタビューがおさめられている。私が医学生の頃はウイルス学は細菌学のつけたしみたいな感じで勉強したという記憶がほとんどない・・・面目ないとは思うが、ウイルス学が急進展したのは分子遺伝学的手法が確立されて次世代シークエンサーが一般的になってから、つまり40年前にはウイルスというものがあって病気を引き起こす程度の話だったのだからしかたのないことでもある。20人の研究者の話は多岐にわたり知らなかったことも多いのでマークしたところだけを抜粋。

  • 第一章 ウイルスと宿主の共存ー

    ヘルペスウイルスと人間の歴史。これほど密接に残っているのは人間にとってもヘルペスウイルスに感染していることが有利に働いているのではないか。

    万葉集・孝謙天皇が詠んだ植物ウイルス「この里は 継ぎて霜や置く 夏の野に わが見し草は もみちたりけり」・・・ウイルスがDNAの脱メチル化でDNAの発現を調節する。

  • 第二章 ともに進化する宿主とウイルスー

    2011年中国で発見されたSFTSウイルス(重症熱誠血小板減少症候群ウイルス)・・怖い。ボルナウイルスが精神疾患を引き起こしている可能性?(鼻から脳にいくのはコロナに似てる・・

    日本の肝がん死の7割はC型肝炎由来。マイクロRNAを作って肝臓を安住の場にしている。

    哺乳動物の胎盤形成において、ウイルス由来の遺伝子が重要な役割を果たしている。(あの子宮の細胞と胎児の細胞が融合するあたりにウイルス由来遺伝子が関与=ウイルス遺伝子が人間を人間にした、という部分もある)

  • 第三章 さまざまなウイルスたちー

    「ヤドカリ」「ヤドヌシ」細胞内で共生するウイルス。

    水圏ウイルスの世界。赤潮をウイルス感染で予防する試み。

  • 第四章 ウイルスを視る!ー電子顕微鏡→透過型、クライオ(ノーベル賞受賞)
  • 第五章 ウイルスを探すーウイルスハンター→ジャングル、温泉で古細菌
  • 第六章 数理でウイルスを知るー西浦先生(6割おじさん)ら

20人中、数人の医師をのぞくとほとんどが獣医学部や農学部の出身の研究者。かれらがウイルス研究を支えていることを知る。確かに、医学臨床とはすこし隔たりがあるような領域ではある。そういうウイルスの新領域があるということを学んだ。