El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

遺伝子とは何か?

地味なタイトルだが、けっこう新しい!

もちろん「遺伝子とはDNAです」なんて単純な話ではない。歴史的な発見の経緯からDNAがあって必要に応じてmRNAが作られmRNAからタンパク質が作られるといういわゆる「セントラル・ドグマ」が分子生物学の常識だったわけだが、その常識がひっくり返りそうになっているという話。

端的に言ってしまえばひっくり返す理論は、RNAこそが主人公だとするRNAワールド説。パソコンに例えてみれば、メモリー部分にHDやSSDから情報を読み込んで、実際の計算はメモリーのなかでの演算ということになるが、このワーキング・メモリー部分がRNAであり、DNAはHDやSSDに保存された状態の情報ということ。さらに例えてお金で言えば、市中に流通している部分がRNAで銀行やタンス預金にため込まれているのがDNA。つまり、主役はRNA!ということになる。

全9章のうち、前半4章でメンデルからワトソン・クリック、セントラル・ドグマという古典的なDNA遺伝子学が完成するまで、真ん中の第5章で転換、後半4章でRNAワールド遺伝子学への誘いとなっている。

エピジェネティックな情報の遺伝、miRNAの調節的な働き、全ゲノム配列の98.5%にあたる非コードゲノムがRNA化されて様々な機能の発現に関わっている。機能の発現と自己の複製の絶妙なバランスをになっている。

すべての進歩のステップの重要論文がリファレンスされているので、英語論文を読んでこのすべてを追体験することもできる(やらないが・・)し、著者は実際そうした追体験した感動を報告しているとも言える。

セントラル・ドグマでほぼケリがついたなんて考えていた時代に青春期を過ごした私としては、改めて科学の進歩に終わりなしと感じた一冊。

「生命は、まさにその複製という性質により原始生命の誕生から40億年とも言われる時間を生き延びてきたのである。保有する情報がエントロピーの増大により劣化し消滅する前に、自己のコピーを作るという作業を40億年成功させ続けてきた。」(P239)