El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

さみしいネコ

「定年後エッセー」で癒される

定年後の生活と意見や、平凡なサラリーマン(経団連の事務局にお勤めだったようだ)時代のあれこれの思い出を、柔らかに語る随想集。早川氏は1919年生まれで1979年定年で1991年没とあるので60歳定年後の12年間のおそらくは前半に書かれたものだろう。

たまたま私家版で199部作った「けむりのゆくえ」が日本エッセイスト・クラブ賞を得て、出版社が出版というはこびになり、20年ほど絶版になっていたものを故池内紀氏が関わって再編集復刊したものがみすず書房「さみしいネコ」(2005)。

それが2022年4月になって新装版としてふたたびみすず書房から出た・・ということで、言ってみれば私家版の定年随筆集が著者没後30年経ってまた復活という、大変長寿で、めでたい感じだ。池内氏も2019年に亡くなって、こうしてこの本が生き延びる。

30年の間に寿命は延び、定年も65歳や70歳という時代になっているので著者の定年後の日々は今の70歳くらいからの15年間くらいに相当するのだろう。

団塊世代の高齢化で定年後本のブームだが、どの本もどうにも慌ただしい感じなのは時代の流れか。お金はなくても超然としていたあの頃の定年後とどちらが幸せなんだろう。そんな感慨に浸れる不思議に長寿の定年後本。