El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

君の顔では泣けない

一気に読ませる、入れ替わり人生論・カフカ的

映画「転校生」でひとつのジャンル化した「男女の入れ替わり」というモチーフだが、入れ替わった男女(坂下陸・水村まなみ)がもとに戻れないまま15年(15歳→30歳)を生きていくことを通して人生論やジェンダー論、家族論などさまざまな要素を包含した文学作品になっている。

主には、男性だったのに女性の体になってしまった「坂下陸」の15年間を通して、女性が人生で通過していく出来事(セクハラー恋愛ー性体験ー結婚ー妊娠ー出産)を男性の心の「陸」がいかに受け止めていくかを通して女性の人生の「大変さ」がしみじみ伝わってくる。

家族関係、友人関係も入れ替わりがなければ、ありふれた通過儀礼にすぎなかったものが入れ替わったためにくっきりと際立ったイベントとして描かれる。

「入れ替わり」というありえない不条理をまず設定して、そこからの人生を際立たせるカフカ「変身」にも通じる作品。