El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

現代思想入門

どんなに生きても満足できる人生はない ってことですね

人生が変わる哲学・・・うーん、こんなことを職業にしているのか哲学者。

やさしくわかりやすく書かれているので、デリダ、ドゥルーズ、フーコー、ラカンのエッセンスがチラッとわかったような気になれるのは確かだが・・・

ラカンの「対象a」・・それを手に入れたら幻滅を同時に味わうことになり、また次の「本当に欲しいもの」を探すことになる。そうやって人生は続いていく。(P157)

我々は否定神学的なXを追い続けては失敗することを繰り返して生きているわけです。(P169)

なんて「誰も生の意味を得ることはできない」という当たり前のまわりをぐるぐると回る言葉遊びが現代思想なのか?

無限の負債を背負い、返しきれないもののために悲劇的な人生を送るのではなく、さまざまな事柄を「それはそれ」として切断し、それなりにタスクを完了させていく。ドゥルーズ+ガタリはそういう気楽な人生を推奨していると僕(著者)は思います。(P172)

99%の人間はドゥルーズ+ガタリの言うところの「気楽な人生」を直感的に生きてると思う。

この本を読んでわかったのは、私(評者)がこれまでの人生で感じた「対象a」的な幻滅や、ついにはたどりつた「人生の目的などはない」という65歳としての実感が、哲学者を含め万人に共通のものだということだ。

「自分のこれまでの人生において、あそこでこう決断していたら・・」などと思うことがあり、正しい決断を続けてベストな人生を歩んだ場合の架空のベストな人生を想像したりすることもあったが「どんなに生きても満足はない」ということが哲学的にも共通認識なのだと理解できたことはうれしい

未熟な理解かもしれないが、それさえわかれば、私には、もう類書を読む必要はない。哲学には近づくまい。サイエンス本や歴史ものを読んだほうがよい。

出版社サイトから

人生を変える哲学が、ここにある――。
現代思想の真髄をかつてない仕方で書き尽くした、「入門書」の決定版。

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デリダ、ドゥルーズ、フーコー、ラカン、メイヤスー……
複雑な世界の現実を高解像度で捉え、人生をハックする、「現代思想」のパースペクティブ

□物事を二項対立で捉えない
□人生のリアリティはグレーゾーンに宿る
□秩序の強化を警戒し、逸脱する人間の多様性を泳がせておく
□権力は「下」からやってくる
□搾取されている自分の力を、より自律的に用いる方法を考える
□自分の成り立ちを偶然性へと開き、状況を必然的なものと捉えない
□人間は過剰なエネルギーの解放と有限化の二重のドラマを生きている
□無限の反省から抜け出し、個別の問題に有限に取り組む
□大きな謎に悩むよりも、人生の世俗的な深さを生きる

「現代思想は、秩序を強化する動きへの警戒心を持ち、秩序からズレるもの、すなわち「差異」に注目する。それが今、人生の多様性を守るために必要だと思うのです。」 ――「はじめに 今なぜ現代思想か」より

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[本書の内容]
はじめに 今なぜ現代思想か
第一章 デリダーー概念の脱構築
第二章 ドゥルーズーー存在の脱構築
第三章 フーコーーー社会の脱構築
ここまでのまとめ
第四章 現代思想の源流ーーニーチェ、フロイト、マルクス
第五章 精神分析と現代思想ーーラカン、ルジャンドル
第六章 現代思想のつくり方
第七章 ポスト・ポスト構造主義
付録 現代思想の読み方
おわりに 秩序と逸脱