El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

双調平家物語(9) 平治の巻(承前)

300ページで三年間!

保元元年(1156年)の保元の乱の終結後から平治元年(1159年)の平治の乱の勃発まで、わずか3年の間の出来事に一冊全部、300ページ超が費やされる。日本史の教科書では半ページの出来事がいかに濃密に描かれうるか、驚くべき古典の読み解きと再構成だ。

保元の乱後の勢力関係がとことん描かれる。院や帝はもちろんだが、摂関家藤原氏、傍流の中関白家流、さらに葉室流に六条流、摂関政治の時代には系統ごとに尊卑が細かく決められていた貴族たちが、院政時代を通じて、婚姻やら男色関係やら、さまざまなつながりを通して入り乱れていく。保元の乱にもそういた混乱の要素はあったが、保元の乱後には後白河天皇(上皇)のフラフラ感もあって、さらに混乱。混乱の中で貴族たちの必死のネットワークづくりが繰り広げられる。それをすべて読み解こうとする双調平家物語の琵琶法師・橋本治

能力主義者・信西が信西となるまでの長い長い物語。無能ながら美丈夫でおっさんずラブの覇者となっていく藤原信頼のこれまた長い長い物語。後白河上皇のもとで覇を競う二人。

対立が決定的になる「安禄山絵巻」事件とそれを引き出すための「源氏物語絵巻」事件、ここにきて第一巻の安禄山の乱や、第六巻の白河上皇と待賢門院の不義、さらに紫式部までが巡り巡って、武者の世とつながる・・・うーん、このくだりにはページをめくる手がとまらない。

藤原信頼が信西を葬ろうとする作戦に源義朝ら多くの源氏武者が巻き込まれてついに決起(平治の乱)、一方でリスク管理に長けた平清盛の不在作戦。いよいよ次巻からが本当の平家物語か?!