El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

生命を守るしくみ オートファジー

オートファジー、ブレイクするのかまだよくわからない

2016年、オートファジーでノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典氏、その一番弟子で、現在この領域の最前線にいるのが著者の吉森保氏(1958年生まれ)。

オートAuto(自分を)ファジーphagy(食べる)=自分を食べるだが、例えば自分の白血球が、他の自分の成分を食べるというような話ではない。もっと小さい細胞の中の出来事。

細胞の中には核やミトコンドリア、小胞体などの構造物がありそれを総称してオルガネラと呼ぶ。オルガネラとオルガネラの間を物質が移動するときにむきだしではなく袋に入って移動する。この袋はオルガネラや細胞膜の一部が変形してできる。こうした袋による移動をメンブレン・トラフィック・システムと呼ぶ。このシステムは経路によって4種に分けられる。

  • 分泌経路・・細胞内で合成したものを細胞外へ
  • エンドサイトーシス経路・・細胞外のものを細胞内へ
  • 生合成経路・・細胞内で合成したものを細胞内の定位置へ
  • オートファジー経路・・細胞内の不要物を処理場所(リソソーム)へ

ということで、細胞内の不要物を包み込んで細胞内の処理場所へ運ぶ(運ぶというよりは袋ごとリソソームの袋と合体させる)しくみがオートファジー。オートファジーの役割は3つ。

  • 細胞成分の分解によるエネルギーの確保
  • 細胞成分のリニューアル(代謝回転)
  • 有害物の隔離除去

ここまでがオートファジー基礎編。後半は応用編で特に2番目の代謝回転の役割が阻害されたり亢進したりすることで糖尿病や腎臓病やがんなどさまざまな疾患の原因になるということを分子生物学的手法で解明していく。ここでオートファジーと疾患がつながったことで、オートファジーが分野として急拡大していることがわかる。

関西人らしいノリのいい文章でオートファジーの全体像をつかむことができる。まあ、当事者以外にそこまでおもしろそうな分野ではないし、臨床応用でブレイクするのかまだよくわからない。それでも、そういう研究をこつこつ続ける研究者たち、技官たちがいるということは大事。