El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

壁とともに生きる わたしと「安部公房」

いま、安部公房を読み直したいと思えるか?

テルマエ・ロマエのヤマザキマリさんによる安部公房のブックガイド。異色の組み合わせとも思えるが、世界を放浪してきたヤマザキマリさんにとって安部公房作品はこころのよりどころだったらしい。

ヤマザキマリさん自身の人生の困難さか重ね合わせるように「砂の女」「壁」「飢餓同盟」「けものたちは故郷をめざす」「他人の顔」「方舟さくら丸」の5作品が紹介されている。個人と集団、民主主義と独裁、日本的社会、自由と孤独・・・など、戦後からバブル期に書かれた安部公房の小説群のテーマが、バブル崩壊・失われた20(30)年、コロナ、オリンピック、ウクライナという今日的テーマとシンクロしている。安部公房の戦中・戦後と現代の相似性ということなのか。

ただし、今この本を読んで安部公房の作品を読むかと言われると微妙。時代を超えて通底するテーマは確かにあるだろうが、バブル後、ソ連解体、ネット社会、コロナと、安部公房の小説を超えた出来事の連鎖の果てにいる現在の私にとっては、安部公房も、どうしてもあの時代の作家たちの一人にすぎないいう気もするから。

また、意図的なのか、山口果林のことに触れていない。参考文献としては挙げてあるが・・・