El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

空白を満たしなさい

分人主義小説の真骨頂

Audibleで聴きました(上下で17時間)。聴いている途中で、NHKでドラマ化され放映されたがやはり原作のほうが深い。平野啓一郎が唱道する「分人主義」がもっとも直截に表現された小説だと思う。(分人主義については下の動画「私とは何か」を視てほしい。

「自分自身を個人(individual)と考え、その個人が関わる相手や社会にあわせてその場ごとに、かりそめの仮面で対応している」という考え方を否定し、「自分自身というものは、相手や社会とのかかわりあいの中で発生する相手ごとの相互関係(これが分人:dividual)の集合体である」と考えるのが分人主義。

わかりやすそうで、わかりにくいのだが、小説を読むとよくわかる。分人の集合体=ネットワークが「私」であると考えれば、たまさかその中の一部の分人がうまくいかなくても悲観せず、他の分人の比率を高めることでやり過ごすことができる。

愛する人や子供と一緒に過ごす分人、仕事に追われ自殺を考えるほど追い詰められた分人、どんな分人もその人自体を支配してしまわないようにバランスコントロールしていく、そういう生き方指南と言える。

小説としての構成力はさすが!

 

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