El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ザリガニの鳴くところ

 良き物語

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

 

ウォーキングの間、Audibleで聴きました。約20時間、一カ月以上。朗読もなかなかよかった。Audibleにふさわしい。

よくできた物語だと思う。湿地に置き去りにされた少女の成長譚、湿地の自然描写、動物生態描写、男女の愛憎物語、殺人と法廷と意外な結末、これらを全部盛り込んで破綻しないまま最後まで引っ張る著者の筆力とおそらくは編集者の力量か。

驚くほどしっかりした部分と驚きほどのはにかみと、そして男女関係においては驚くほどの俗っぽさ(親に会わせろや結婚願望など)、それらが混合している不安定さもまた主人公の持ち味なのだろう。

物語りに入り込んでいる間はまるで主人公になったかのように楽しめる。他の読者もそう思うのだろう、ゆえに、自分の予想と違う展開に対しては反発する声も多いが、それも出来の良いフィクションの宿命か。