El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか

新書でTレグのすべてがわかる

ハイレグとT-バックでTレグではありません。

TレグとはRegulatory T cell(制御性T細胞)。Tレグ研究の第一人者でノーベル賞候補ともいわれる坂口志文先生へインタビューや論文をサイエンスライターの塚崎さんがまとめ、1冊の新書でTレグについてその出発点から今研究されている最先端までがクリアにわかる。二人三脚が功を奏して、免疫のイロハから始めて最先端のTレグまで理解することができ、さらにTレグを応用した未来の医療まで、なんだかあっという間に読んでしまう。

免疫を担うリンパ球にはB cellとT cell があるがその先の分類はなかなか難しい、ヘルパーT細胞やサプレッサー(抑制性)T細胞なんて聞いたことがあるのでは。ところがサプレッサーT細胞は存在が否定されていた(この本を読んで初めて知った、不勉強)。

T細胞は胸腺で分化する。感染防御免疫に対応するヘルパーT細胞。しかし、免疫がやりすぎて自分自身の組織を攻撃したらこんどは自己免疫疾患が起こる。自分自身を攻撃するようなT細胞の大部分は生直後に胸腺で排除されるのだが、さまざまな原因で自分自身を攻撃する。そこで、自己への攻撃を緩和するよう調節するのが制御性T細胞(Tレグ。むずかしいが「自己」と「非自己」はシロかクロかではなく連続的なものなのだ。その連続的な部分をTレグが分子的メカニズムを駆使して実現させている。

だからTレグのさじ加減が狂えばがんに対する免疫がうまく働かなかたり、自己免疫疾患が起こったりする。そのメカニズムを坂口先生が海外の研究者と競いながら少しずつ、少しずつ明らかにしていくプロセスがなかなか読ませる。サプレッサーT細胞の凋落によりTレグもなかなか世間に認められない時代がなど、苦労もされたんですね。まあ、そこらの詳しいところは本書を読んでください。

Tレグを強化すれば自己免疫疾患は改善する。Tレグを抑えればがん免疫を強化する。その塩梅が難しいということ。逆にそれを自己免疫疾患の治療やがんの免疫療法に応用できる可能性もあり、その分野で多くの研究が行われている。後半の数章はそうしたTレグの未来像が語られる。自己免疫疾患の原因は標的臓器の交差抗原性と長くいわれてきたがTレグの表面タンパクの遺伝子多型が関連しているかも・・・などという話はおもしろい。

最初は固いタイトルだなと思って読み始めたが、するする頭に入って、Tレグ・・いただきました。