El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

嘆きの王冠 ホロウ・クラウン(Blu-ray)

いま問いたい「なぜ国全体が暴君の手に落ちてしまうのか?」

BBCが2012年ロンドン・オリンピックにあわせた文化事業としてシェイクスピアのイギリス王朝史劇をテレビドラマ化したもの。Blu-ray7枚+Bonus1枚の構成。

イギリス初の本格的中央集権王朝であるプランタジネット朝(1154-1485)は正統派時代→ランカスター家時代→ヨーク家時代の3つに分けられ。初期には現在のフランス、ノルマンディーからブルターニュをも支配下においていたが、百年戦争(1339-1453)、ばら戦争(1455-1485)という二つの戦乱を通してフランス部分を失う。その過程をシェイクスピアが「リチャード2世」「ヘンリー4世(1部・2部)」「ヘンリー5世」「ヘンリー6世(1部・2部)」「リチャード3世」という7部構成の史劇として描いた。それをほぼシェイクスピア・オリジナルに近い形でテレビドラマ化している。人物ごとに短評を加えると。

  • リチャード2世・・・ヘンリー2世の孫であり正統系。ややエキセントリックで人心を失い傍系(ランカスターとヨークはヘンリー2世の次男・三男の家系)のランカスター家、ヘンリーに王位を奪われ殺される。
  • ヘンリー4世・・・ヘンリー(役者がジェレミー・アイアンズに急に代わるので違和感あるが・・)がヘンリー4世に。比較的善政を行うも簒奪者の王としての悩みあり。放蕩者の王子に悩まされるが、王子は次第に成長して偉大な王(ヘンリー5世)にふさわしい人物に。
  • ヘンリー5世・・・偉大な王となったヘンリー5世、大陸の領土を回復するなど活躍するも短命であった。
  • ヘンリー6世・・・父ヘンリー5世の急死によって幼くして王位についたこともあり、摂政まかせで貴族による派閥争いが激化。傍系であるヨーク家との王位継承をばら戦争で争い、敗れる。ヨーク家のエドワード4世が即位しヨーク時代に。
  • リチャード3世・・・エドワード4世は3人兄弟で末弟のリチャードは身体に障害を抱え邪悪な心性。次々と策謀で周囲の人間を排除していきリチャード3世として王位につくが、ランカスター家の末裔(のちのヘンリー7世)との闘いで敗れて死ぬ。ヘンリー7世はエドワード4世の娘エリザベスを妃に迎え、ランカスターとヨークの闘いが終わり、ここからチューダー朝に。

暴君、簒奪者、善王、惰弱王とそれぞれを俳優の演技が魅せる。そしてなんといっても邪悪王リチャード3世のカンバーバッチがプーチン的王を余すところなく表現。チューダー朝で平和の時代・・・を予感させるエンディング。ヘンリー7世とエリザベスの子供が絶対君主ヘンリー8世、その子供がエリザベス1世である。シェイクスピアはエリザベス1世時代の後半に活躍しこれらの史劇を書いた。

歴史の流れを予習しておかないと難しいかも、オススメは

また、シェイクスピア史劇を評論する体裁をとりながら暗にトランプやプーチンの暴政を批判する「暴君」も併せて読みたい。