El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

汚名(上・下)

ハリー・ボッシュ シリーズ (20) 

ボッシュは67歳の設定。個人的にはボッシュ・シリーズでTOP3に入る。二つの事件を同時に解決するというのはこれまでにもあったが、それぞれの事件の設定がどちらもよく練られており、かつテーマも現代的でありいわゆる社会派小説とも言える部分もある。

1つは、医療用オピオイド(オキシコンチン)による麻薬中毒の蔓延をベースにした事件。アメリカでは一大社会問題であり続けているらしいが、それを真正面から告発するような事件構成になっている。目の前の事件としては、全体を組織化するロシアンマフィアやオキシコンチンの処方箋を書きまくる(処方箋工場ビル・ミルと呼ばれる)悪徳医師、結託してオキシコンチンをニセ患者に渡す薬剤師の存在があるのだが・・・その奥には、そうした医療用麻薬のみならず中毒者への便秘治療薬(ナルデメジン:1錠3,000円!)までも収益がメディケアなど公的医療保険から製薬企業に還流しているという事実があり、政治的発言力の強いそれら製薬企業がこの事態が改善することを望んでいないという、まあなんというか・・・悪の社会学。

もう1つの事件はDNA鑑定がらみ。これまでDNA鑑定という科学の進歩で未解決事件が解決するというプロットはあったが、今回は収監されている殺人犯をDNA鑑定を悪用して冤罪だったことにしようという逆転の発想の犯罪。

リンカーン弁護士ハラーやかっての相棒エドガーも重要な役どころで登場。Amazon Prime Videoのボッシュ・シリーズ5がほぼカバーしている。


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