El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

性感染症 プライベートゾーンの怖い医学

男性の不倫は急性心筋梗塞の高リスクファクター

性感染症 プライベートゾーンの怖い医学 (角川新書)
 

男性の不倫は急性心筋梗塞の高リスクファクター

自費出版のような感じも受けるが、内容は充実しており一読の価値あり。性感染症だけでなく性分化異常や高齢者の性など、語られにくいプライベート・ゾーンの医学が実際の診療エピソード満載で語られる。この分野も、いや性という分野だからこそ、時代とともに大いに変貌していることに気づかされる。

タイトルになっている性感染症の分野では、変化をもたらす2つの要素、①AV(=アダルト・ビデオ)の影響、②インバウンド旅行者の影響・・・なるほど。

AVに触発されて、オーラルやアナルなどそれまで日本人には一般的ではなかったものが一般化したために、下(シモ)の病気が上に・・・咽頭痛でカゼかと思ったらクラミジア咽頭炎だったとか、HPVで咽頭がん、などなど。アナルで言えば、アメーバー赤痢をもらってしまうということが実際に起きている。確かに、数年間難治性の潰瘍性大腸炎として治療されていたものが実はアメーバ赤痢だったという例を見たことがあります。

インバウンドといえば、中国・東南アジアですが、日本では制圧されていた性感染症やウイルスがそれらの国からバンバン持ち込まれている現実は・・・まあ、冷静に考えてみれば当たり前のことでコロナ禍にも通じるところあり。そういう人と接触しないから大丈夫という考えは大間違いで、例えば「接待を伴う飲食店」や「性風俗の店」の従業員を介して感染するということはかなりありそうな話です。

そういう現象の結果として、HIVや梅毒、スーパー淋病が若者中心に増えてきているという事実を知れば・・・恐ろしい話です。また、2020年10月から避妊用の低用量ピルが処方箋なしで入手できるようになりましたが、ピルは妊娠は防げても性感染症は防げない、というよりむしろ性感染症は広がりやすくなります。

性感染症以外でも、話題満載です。

DSD (性分化異常)についても現場感覚にあふれたエピソードが多く、見た目の性別と染色体上の性別が相違しているDSD新生児は毎年200人生まれているんですね。男の子・女の子として出生届を出して、男の子であれば小児期に、女の子であれば思春期に、どうも変だということになる。そこまで見た目の性別で生きてきたわけですから、そこから切り替えるのも困難ですよね。LGBTの一部にはこのDSDの人々も入っている わけなんです。

また、初潮年齢が若くなっているのに妊娠・出産・授乳の機会が昔に比べれば激減しているため、女性の月経の回数は戦前に比べて10倍にもなっているという事実も言われてみて初めて気づきました。これが子宮内膜症の増加をもたらしているわけです。

まだまだ、面白い話がたっぷりですが、ちょっとここには書きにくいことも多いのでぜいとも一読をお薦めします。教科書では得られないリアルな性医学!感服しました。

最後に、書きにくいことの中から一つだけ警鐘として抜書きしておきましょう。いわゆる腹上死の話題で「男性の不倫は急性心筋梗塞の高リスクファクター」らしいですよ!