El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(92)―理解のためには LGBTよりもSOGI―

 

LGBTとハラスメント (集英社新書)
 

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴24年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマはもう何度目かの「LGBT」。企業コンプライアンスもからみますので、きちんとした理解をしておきたいと思いちょっと堅いタイトルの本を選んでみました。

 ここ10年くらいの間にLGBTというワードが急にポピュラーになり、差別をなくそうという運動が活発になり、一方で差別的発言もあり、さらには差別的発言へのバッシング騒ぎもありました。そもそもLGBTというワード、レズビアンとゲイとバイセクシュアルとトランスジェンダーの頭文字を連ねて性的マイノリティ全体を象徴しているということなのですが、それ自体がわかりにくいのも事実です。

 一方で、社会的認知がすすんだことでも診断書上の病名としてだけではなく、まさにお客さまや職場の同僚としても性的マイノリティの人たちと接する機会も増えてきています。

 この本は性的マイノリティとは何なのかをきわめてわかりやすく解説してくれます。ポイントは「性」について4つの軸で考えるということです。その4つとは
 ① 法律上(出生届上)の性
 ② 性自認(Gender Identity)自分の性をどう認識しているか
 ③ 性表現 社会的にどうふるまうか(服装・言葉など)
 ④ 性的指向 (Sexual Orientation)自分の性愛・恋愛感情がどの性に向かうか
 このうち最も重要なのが②の性自認(GI=Gender Identity)と④性的指向(SO=Sexual Orientation)です。性自認が法律上の性と同じであればシスジェンダー、逆であればトランスジェンダーとなります。一方、性的指向が法律上の性と同じであればホモセクシュアルで、逆であればヘテロセクシュアルとなります。GIとSOはまったく別の概念なのだという理解が大切です。

 性的マジョリティとはシスジェンダーヘテロセクシュアルということになります。性的マイノリティの人々もそれぞれ、例えばレズビアンとゲイはシスジェンダーホモセクシュアルということになります。レズビアンとゲイはGIについてはシスなので性自認で悩むということはありません。一方、トランスジェンダーは法律上の性と性自認が一致しないのですからその違和感・悩みが深く、性別適合手術を必要とすることもあります。つまり性別適合手術受けるのはほぼトランスジェンダーの人たちなのだということが理解できます。

 このようにGIとSO(二つ合わせてSOGIソジという)にわけて考えるとすっきり理解できますよね。すでにパワハラ防止指針において明確に「相手の性的指向性自認に関する侮辱的な言動」や「労働者の性的指向性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に曝露すること(アウティング)」はパワハラに該当することが明示されています。SOGIについてのパワハラということでSOGIハラとよぶらしいです。

 LGBTについての社会的認知がすすんできて、とくにトランスジェンダーの人が性別変更手術を受け性別を変更することが増えています。それは、急に増えたというのではなく、社会の中で認知されずにいたものが認知されてきた結果と考えられます。そして社会に一定の割合で性的マイノリティが存在することを普通のことだと考えるべき時代になっているのです。SOGIを理解して、SOGIハラをしない・させないということですね。本書後半はたくさんの事例集になっていますので一通り読むと理解がさらに深まります。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2021年5月)。

ふたりの証拠(悪童日記第2部)

 常にそれまでを包含していく不思議な物語(ネタバレ少し)

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

 

悪童日記で逃げたクラウスと残ったリュカ。そのリュカの戦後の物語が25歳(マティアスの死)の時点まで小説風に描かれる。それは戦後の共産党独裁からハンガリー動乱の時代を思わせる。

そして最終章、話は50歳の時点にとび、そこには旅行客として現れたクラウスがいる。リュカは30歳の時点でヤスミーヌ(マティアスの母)を殺していたことが発覚し行方不明になっていた。・・・・

ところが最後に附された調書からは、それまで展開してきた8章からなる小説こそがクラウスという旅行者=今は違法滞在者によって書かれたと・・・・

悪童日記がリュカの物語に包含され、リュカの物語がクラウスの物語に包含され、読者はクラクラした頭になって第3部「第三の嘘」へと誘われる。

悪童日記

人生いたることろブラッド・ランドあり

悪童日記

悪童日記

 

ヒトラースターリンの二つの狂気の波が行ったり来たりして夥しい悲劇が起こった地域ブラッド・ランド(いわゆる東部戦線地域)を生きる子供が書いた62の日記風断章。歴史家が俯瞰的にみた歴史ではなく、その悲劇をそのど真ん中で子供の目で見たらこんな風に見える。

そしてこの日記というスタイルが逆説的に、この悲劇がいつでもどこでも起こりえる普遍的なものだという感覚を呼び覚ます。満州で朝鮮で中国でベトナムアフガニスタンで・・・。

著者は悪童の双子とほぼ同じ時期・場所で少女期を過ごしておりある意味自伝でもある。「ふたりの証拠」「第三の嘘」と続く三部作にすすまずにはいられない。

現代世界の十大小説

 ステイ・ホーム&緊急事態宣言のGWに・・

現代世界の十大小説 (NHK出版新書)

現代世界の十大小説 (NHK出版新書)

  • 作者:池澤 夏樹
  • 発売日: 2014/12/09
  • メディア: 新書
 

コロナ禍2年目のGWに出かけることもできないので、この本に取り上げられた十大小説を読んでみようかと・・・中身を改めてリストアップ

  1. 「百年の孤独」ガブリエル・ガルシア=マルケス(新潮社 既読 PDFあり)
  2. 「悪童日記」アゴタ・クリストフ(早川epi文庫)
  3. 「マイトレイ」ミルチャ・エリアーデ
  4. 「サルガッソーの広い海」ジーン・リース
  5. 「フライデーあるいは太平洋の冥界」ミシェル・トゥルニエ
  6. 「老いぼれグリンゴ」カルロス・フェンテス
  7. 「クーデタ」ジョン・アップダイク
  8. 「アメリカの鳥」メアリー・マッカーシー
  9. 「戦争の悲しみ」バオ・ニン
  10. 「苦海浄土」石牟礼道子(部分既読)

緊急事態宣言下だが今回は図書館は開いているようだ。①はもう読まないとして①②以外は池澤編集の世界文学全集(河出)に入っているので予約して借りて読めばいい。とりあえず④⑤を予約し②は直接借りてくることに。

 

自閉症遺伝子

 そんなものはない

バイオベンチャーが誇大なことを言って資金を集めながらもそれに見合った商品を生み出せない。しかし、社会は誇大広告に乗せられて、特にリスクを抱えた人々はわらにもすがるために、そういういい加減な検査が社会にはびこる。・・というよくある話を、自閉症が遺伝子検査で予測できるというちょっと怪しい話に関して、その企業への突撃取材などから報告する、というスタイルの本。

自動車でもテレビでも複雑な部品の集合体であれば、故障の場所に関わらず、動かない・映らないという結果が生じる。自閉症も同じで、この遺伝子が悪いので自閉症になるというシンプルな因果関係論で論じられるものではない。さまざまな部品のどこかが故障しても結果として、表現型は同じ自閉症になる。だから因果関係論的に結果から原因を単純に探ることなんてできない。考えてみれば当たり前のことではある。

LGBTとハラスメント

性的マイノリティの理解には LGBTよりもSOGI

LGBTとハラスメント (集英社新書)
 

ここ10年くらいの間にLGBTというワードが急にポピュラーになり、差別をなくそうという運動が活発になり、一方で差別的発言もあり、さらには差別的発言へのバッシング騒ぎもありました。そのせいで、医師としてはなんとなくあまり関りたくないワードになってしまったのではないでしょうか。そもそもLGBTというワード、レズビアンとゲイとバイセクシュアルとトランスジェンダーの頭文字を連ねて性的マイノリティ全体を象徴しているということなのですが、それ自体がわかりにくいです。

一方で、社会的認知がすすんだことで医療者も患者さんとしてだけでなく同僚としてそうした性的マイノリティの人たちと接する機会も増えてきています。今回は性的マイノリティに関する用語がわかる本を選んでみました。

この本「LGBTとハラスメント」は性的マイノリティとは何なのかをきわめてわかりやすく解説してくれます。ポイントは「性」について4つの軸で考えるということです。その4つとは

  • 法律上(出生届上)の性
  • 性自認(Gender Identity)自分の性をどう認識しているか
  • 性表現 社会的にどうふるまうか(服装・言葉など)
  • 性的指向 (Sexual Orientation)自分の性愛・恋愛感情がどの性に向かうか

このうち最も重要なのが②の性自認(GI=Gender Identity)と④性的指向(SO=Sexual Orientation)です。性自認が法律上の性と同じであればシスジェンダー、逆であればトランスジェンダーとなります。一方、性的指向が法律上の性と同じであればホモセクシュアルで、逆であればヘテロセクシュアルとなります。GIとSOはまったく別の概念なのだという理解が大切です。

 性的マジョリティとはシスジェンダーヘテロセクシュアルということになります。性的マイノリティの人々もそれぞれ、例えばレズビアンとゲイはシスジェンダーホモセクシュアルということになります。レズビアンとゲイはGIについてはシスなので性自認で悩むということはありません。一方、トランスジェンダーは法律上の性と性自認が一致しないのですからその違和感・悩みが深く、性別適合手術を必要とすることもあります。つまり性別適合手術受けるのはほぼトランスジェンダーの人たちなのだということが理解できます。

このようにGIとSO(二つ合わせてSOGIソジという)にわけて考えるとすっきり理解できますよね。すでにパワハラ防止指針において明確に「相手の性的指向性自認に関する侮辱的な言動」や「労働者の性的指向性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に曝露すること(アウティング)」はパワハラに該当することが明示されています。SOGIについてのパワハラということでSOGIハラとよぶらしいです。

 LGBTについての社会的認知がすすんできて、とくにトランスジェンダーの人が性別変更手術を受け性別を変更することが増えています。それは、急に増えたというのではなく、社会の中で認知されずにいたものが認知されてきた結果と考えられます。そして社会に一定の割合で性的マイノリティが存在することを普通のことだと考えるべき時代になっているのです。SOGIを理解して、SOGIハラをしない・させないということですね。本書後半はたくさんの事例集になっていますので一通り読むと理解がさらに深まります。

国宝 上 青春篇(Audible)

Audibledで聴きました。

国宝 上 青春篇

国宝 上 青春篇

  • 作者:吉田 修一
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: Audible版
 

3~4月のウォーキングAudibleは「国宝」。コロナ禍・寒い日・雨の日が多く一カ月(3/17~4/19)かかって上・青春篇を聴き終えた。長崎弁はちょっとちがっているけど、やはり尾上菊之助の語りがなかなかいい。感想はまた下・花道篇を聴き終えてから。