El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

メモ 橋本治 日本古典作品一覧

偶然読み始めた「双調平家物語」だが、さらに note の chisato_mrt さんのこの記事がさらに背中を押してくれて、橋本治の日本古典を読む気力がアップ⇑ しかし、道は長い

  • これで古典がよくわかる
  • 古典を読んでみましょう
  • 橋本治の古事記
  • 桃尻語訳 枕草子(全3巻)
  • 源氏供養(上・下)
  • 窯変源氏物語(全14巻)
  • 双調平家物語(全15巻)
  • 院政の日本人(双調平家物語ノート)
  • 権力の日本人(双調平家物語ノート)
  • 絵本 徒然草(上・下)

今はまだ「双調平家物語(5)」を読んでいるところ。しかし、ここまでだけでも古典どころか日本史が「わかる、わかる」の状態に。うれしい。

バブル期に買ったマンションのローンを払い続けて完済とほぼ同時に亡くなったらしい。ローンのために多作になったと・・・。とはいえ、おかげでこれら膨大な著作を読むことができるわけです。

エドワード・ホッパー作品集

寂しいあなたの姿を描くホッパーの世界を届けます。

家族でファミレスに来て、みんなそれぞれのスマホをのぞき込んでいるような孤独感、それがホッパー。どの絵のどの人物も、その人そのものというよりは、社会が求めたその人の役割を演じているに過ぎない・・・そんな現代的な寒々しさを感じる。

ゆえに、現代的なリアルで酷薄な社会を描く小説などに雰囲気がぴったり。マイクル・コナリーの「ボッシュ」シリーズでも第1巻にナイト・ホークス(翻訳版のタイトルでもある)の絵が登場する。やりきれない一日を過ごした後、家に帰っても一人、グラスにバーボンを注いで口に運ぶ。それがまさにホッパーの世界。

ここ数年、ホッパーの絵をモチーフにした小説集などが出版されていたのにホッパーの作品集は原書しか入手できなかった。そこに、A4というサイズで画集らしい開きやすいページとじのこの本、江崎聡子さんの「エドワード・ホッパー作品集」が登場。速攻で入手しました。

ああ、ページをめくるたびに、やはり不穏な寂寥感につつまれます、ホッパー。他の絵にないこの不穏な感じはなんだ!?

「ワーニャ伯父さん」から「ドライブ・マイ・カー」まで

話題のアカデミー賞映画を準備万端で観てみました。

アメリカのアカデミー賞。話題の邦画「ドライブ・マイ・カー」は作品賞は逃しましたが、国際長編映画賞を受賞しました。

この映画、演劇の演出家や役者が登場人物で、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」が映画の中での重要なモチーフ。映画を観る前に無料のKindle版で読んでみました。30分ほどで読めます。

次にNHK広島が制作した広島ローカルの撮影現場のドキュメンタリー番組をみます。NHK+で4/9まで配信中です。

 ”広島が舞台となった映画『ドライブ・マイ・カー』。平和記念公園や国際会議場など世界に誇る名建築や瀬戸内の風景といった、美しい広島の今の魅力が映し出されている。「原爆から復興した広島の姿に、妻を亡くした男性の再生を描いた物語が重なる」と濱口竜介監督は語る。広島の街に導かれたという撮影現場。そのクライマックスにNHKのカメラが潜入。世界的に評価を受ける映画の舞台裏とは?濱口監督が広島に託した思いに迫る。” 

そして、肝心の映画の方はAmazon Primeで500円(2022年4月2日時点)で見れます。

(4月3日追記)

日曜の午後、カーテンを閉じて自宅テレビで3時間、没入して観ました。

☆5つとまではいかないけれど、メッセージは伝わりました。若い監督らしく、エピソード盛り込みすぎで少し冗長な感じも受けましたが、演劇好きにはたまらないかも。「ワーニャ伯父さん」は読んでおいたほうがいいです。

映画は映画館で見たほうがいい・・という意見はわかります。しかし、還暦をとうに過ぎて、聴力が衰えてきているのかボソボソしゃべるセリフが聞き取りにくいので映画館での邦画はムリ!というのが正直なところです。自宅リビングで大画面のテレビでヘッドフォンというのがマイ・スタイルです。

がん検診は、線虫のしごと

直感的には「あやしい」話と思っていたら文春砲に撃たれたが、どうなる

微小な寄生虫である線虫の嗅覚を研究していたという著者の広津氏。線虫の嗅覚と「がんのにおい(具体的にはがん患者の尿のにおい)」を結び付けて、線虫で「がん検診」すれば精度は9割だった、というのが本書。

この本を読むと「精度9割(87%)」は明記されていないが「陽性的中率=がんの人の尿で陽性になる率」のことのようだ。こうした検査では「陰性的中率=がんでない人の尿で陰性になる率」も重要なのはずだが、漠然と「精度9割」と出てきて、具体的な陰性的中率、偽陽性率、偽陰性率などの統計的数値はなにも書かれていない。

線虫の反応のメカニズムが「がん患者の尿のにおい」の一点張りで、具体的には尿の中の何なのかわからないし、追求した形跡もない。線虫が、がん患者の尿には近づき、健常者の尿からは遠ざかる、というのは観察された相関関係にすぎない。「がん検査」に使うからには、「がん患者の尿の特定の微量物質Aに反応して近づく」という因果関係が証明されるべき。

しかし微量物質Aが特定できたら、線虫の必要性がなくなるわけで、そういう意味ではこの線虫検査は「人智にはわからない微量物質のにおいを線虫が嗅ぎ分ける」という少しファンタジーじみた話になる。いまどきあるのか?そんな物質。本当にそんな物質があるならHPLCとかでわかるんじゃないのか。

というわけで、この検査は途中に線虫を介在させることでそうした因果推論をあいまいにしていることは否めない。広津先生には是非、そこらをはっきりさせてほしい。

頭から否定するわけではないが不明瞭な点が多く、アイデアはよかったけど現実化は無理だったというレベルの話のように思う。すでに下記のようなサイトも取り上げている。

検査にまつわるフェイクな事件と言えば「セラノス事件」・・

さらに原理を聞いただけで「あやしい」といえば、アルツハイマー薬アデュカヌマブも無理スジの薬なのではないだろうか。持ち上げた本もあったが・・

双調平家物語(4) 栄華の巻3

あー! 奈良時代ってそういうことだったのか!

奈良時代は「聖武天皇の時代」。天智、天武のあと、娘でもあり妻でもある持統女帝から元明・元正とつなぎの女帝のあとに「聖武天皇(724-749)」そしてその娘「孝謙(749-758)・称徳天皇(764-770)」で、あとは道鏡事件でぐちゃぐちゃになり桓武天皇が平安京へ。

ということは、奈良時代って聖武天皇を天皇にするまで、天皇になってから、天皇を娘に譲ってから・・・という切り口で考えればすごくよくわかる。天皇になってからは思いつき上司みたいに遷都を繰り返す聖武天皇、行き当たりばったりの女性東宮から孝謙女帝の誕生、大仏建立から、孝謙女帝が称徳女帝になって道鏡事件へと・・・もう何が何やらというなかで、三世一身から墾田永年私財法へと国の形そのものが崩壊していく。

そんなカオスの時代に掉さしたり、過剰適応しようとしたりして滅びていく、藤原広嗣・橘奈良麻呂・・・(と本書はここまで)さらに次巻では、ついには藤原仲麻呂までも・・・と。

いやあ、歴史本よりもはるかによく頭に入る奈良時代史。参りました。

以前に読んだ岩波新書のレビューの浅さに比べると格段に理解が深まった。

 

サピエンス全史(Audible)

Audibleで聴きました。全部聞くと24時間!

24時間かけて聴くのは時間のムダだったかな。活字であればある程度読み飛ばして、もう少しスピーディに行けたのかも。

いわゆる文明史もので歴史好きにとっては目新しいことはほとんどない。こういう本が若い人にはうけるのかもしれない。

経済学の分野だけは門外漢であるためか役に立った。預金と貸出金の比率、預貸率が1000%くらいまでの時代もあったらしい。バブル期の日本では200%くらい、現在は50%とか。

大学生が読むにはいいと思う。24時間・・・Audible聴き放題にとっては重荷だった。

生命を守るしくみ オートファジー

オートファジー、ブレイクするのかまだよくわからない

2016年、オートファジーでノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典氏、その一番弟子で、現在この領域の最前線にいるのが著者の吉森保氏(1958年生まれ)。

オートAuto(自分を)ファジーphagy(食べる)=自分を食べるだが、例えば自分の白血球が、他の自分の成分を食べるというような話ではない。もっと小さい細胞の中の出来事。

細胞の中には核やミトコンドリア、小胞体などの構造物がありそれを総称してオルガネラと呼ぶ。オルガネラとオルガネラの間を物質が移動するときにむきだしではなく袋に入って移動する。この袋はオルガネラや細胞膜の一部が変形してできる。こうした袋による移動をメンブレン・トラフィック・システムと呼ぶ。このシステムは経路によって4種に分けられる。

  • 分泌経路・・細胞内で合成したものを細胞外へ
  • エンドサイトーシス経路・・細胞外のものを細胞内へ
  • 生合成経路・・細胞内で合成したものを細胞内の定位置へ
  • オートファジー経路・・細胞内の不要物を処理場所(リソソーム)へ

ということで、細胞内の不要物を包み込んで細胞内の処理場所へ運ぶ(運ぶというよりは袋ごとリソソームの袋と合体させる)しくみがオートファジー。オートファジーの役割は3つ。

  • 細胞成分の分解によるエネルギーの確保
  • 細胞成分のリニューアル(代謝回転)
  • 有害物の隔離除去

ここまでがオートファジー基礎編。後半は応用編で特に2番目の代謝回転の役割が阻害されたり亢進したりすることで糖尿病や腎臓病やがんなどさまざまな疾患の原因になるということを分子生物学的手法で解明していく。ここでオートファジーと疾患がつながったことで、オートファジーが分野として急拡大していることがわかる。

関西人らしいノリのいい文章でオートファジーの全体像をつかむことができる。まあ、当事者以外にそこまでおもしろそうな分野ではないし、臨床応用でブレイクするのかまだよくわからない。それでも、そういう研究をこつこつ続ける研究者たち、技官たちがいるということは大事。