El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(119)ー 胡散臭い?アルツハイマー治療薬 ー

https://uuw.tokyo/book-guide/

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第119回目のテーマは「アルツハイマー病治療薬」。これまでにもNo.105「アルツハイマー征服」で批判的に取りあげていますが、これを書いている12月14日にニュースが流れました。

「アルツハイマー病の治療薬レカネマブ(商品名レケンビ)について、厚生労働相の諮問機関に当たる中央社会保険医療協議会(中医協)は13日、薬の公定価格(薬価)を500ミリグラム11万4443円、1人当たり1年間の治療で約298万円とすることを承認した。公的医療保険が適用される。」・・・1人1年間300万の薬ってどうなってるの?というわけで再度取り上げてみます。
このレカネマブ、私は3重に胡散臭いと思っています(個人の意見です)。

①効果ありという治験結果が胡散臭い レカネマブに有効性ありとする治験では、アルツハイマー病早期の巻者に対してCDR-SBという認知症の程度を判定するスコアでの認知機能評価を最重要項目としています。CDR-SBでは0点から18点までの点数がつけられ、高いほど障害が重い。治験対象患者は治験前のスコアが平均3.2だった。これが18か月後に、レカネマブ投与群では1.21の悪化(悪化ですよ!)、対照群では1.66の悪化。これを「悪化のスピードを27%遅らせ統計学的に有意」だというんです! ん?3.2点だった患者がそのままでは4.86点に悪化したけど、レカネマブ投与で11.21点の悪化にとどまった、ということらしい。これって、研究者やメーカーがどうにかして「統計的に有意な効果がある」と言いたいがための数字のマジックでしかないと、私は思います。 ②アミロイドに対する抗体の作用機序が胡散臭い これらの認知症抗体医薬の開発の基本となるのはアミロイド・カスケード仮説です。「アルツハイマー病の発症は、アミロイドが脳の中(ニューロンの中)にたまっていき、凝集し、βシート構造になって細胞内に沈着する。これがアミロイド斑(老人斑)で、それがたまってくると、ニューロン内にタウが固まった神経原線維変化が生じニューロンが死んで脱落する」という仮説です。 だからといってアミロイドに対する抗体を投与した場合に生体内でどんな反応が起こって認知症の悪化の抑制がおこるのかどうもよくわからない。アミロイドを内部にもつニューロンを攻撃するとニューロン自体が死滅することになるので、認知症は逆に進行するんじゃないのと考えてしまいます。 ③そもそも「アミロイド仮説」そのものが胡散臭い 最後に今回の本「アルツハイマー病研究、失敗の構造」。読むと驚きますね。 「アルツハイマー病研究の歴史は、急いで治療薬を求めるあまりに袋小路に入り込み、道を失った物語でもある(中略)、アミロイド・カスケード仮説というたったひとつの仮説になぜここまでの勢いがついて、当時議論にのぼっていたさまざまな代替モデルをロードローラーのようにことごとく押しつぶすまでになったのか・・・」 「アルツハイマー病の定義自体が、薄弱な根拠をもとに構築され、特にアミロイドプラーク(脳における老人斑)を「原因」とする仮説のの破綻を覆い隠し、むしろ依存を強める方向に改変されてきた・・・」
300ページ超の本ですが、こうした研究の流れ(偏向?)が丁寧に解き明かされてゆき、そもそも「アミロイド仮説」そのものが仮説にすぎないのに、それがあたかも定説かのごとく扱われ、いつの間にかアルツハイマー病の定義そのものに「アミロイド蓄積」が組み込まれるという逆説・・・恐ろしい話です。 FDAや厚労省はごまかされても常識的な医師はレカネマブを信じられるとは思えないのです。まあ私のこの直感がはずれて画期的な治療薬開発につながればそれはそれでよろこばしいのですが・・。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2023年12月)