El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(90)―ストロング缶に手を伸ばす、あなたはもう依存症!?―

――ストロング缶に手を伸ばす、あなたはもう依存症!?――

だらしない夫じゃなくて依存症でした

だらしない夫じゃなくて依存症でした

 

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「アルコール依存症」。アンダーライティングからは少し離れますが、飲酒への依存をわれわれ自身の健康問題として考えさせられる一冊を見つけました。

年度末ですから、例年でしたら歓送迎会や花見と宴会のシーズンですが、今年はコロナで自粛、大勢で飲酒する機会は減ってしまいました。ところが、テレワーク+ホームステイのせいなのか缶やビンのゴミ出し日の朝、毎回のように大量の缶酎ハイや缶ビールの空き缶が詰まった袋が捨てられているのを見ることが増えました。家飲みの飲酒量は増えているようです。

「だらしない夫 じゃなくて 依存症でした」はマンガです。ところが、そんな空き缶だらけのゴミ袋の絵が冒頭に出てくるリアリティ! マンガとは言え厚労省の依存症啓発事業の中で描かれ始めたマンガだけに随所に圧倒的リアリティがあり、それに引き込まれて一気に最後まで読んでしまいました。

薬物依存やギャンブル依存の既往者も登場人物としてうまく取り入れながらアルコール依存の難しさ、そしてそれに、周囲がそして当人がどう立ち向かっていくべきなのかがよくわかります。そこには作者の三森さんの経験が盛り込まれており、そのあたりも最終章(番外編)におさめられている。それゆえのリアリティであり、これがアルコール依存の現実であると二段仕掛けで腑に落ちるしかけになっています。私も振り返って10年前、20年前の自分の飲酒状況を思い出してみるとなんだか依存症ぎりぎりのところにいたこともあったかもしれないと思い出してみたりしました。

マンガを通して、依存症が脳の病気であるという認識をまず持ちます。いわゆる脳の報酬系の回路の話もきちんと出てきます。そして、保健所など適切な機関への相談の仕方、これは心理的ハードルをどう乗り越えるかということですね。アノニマスなどの依存症者の自助グループとはどんなところなのかもわかります。スリップ(つい飲んでしまった!)への対応などなど・・・これらは文章で書かれたらこれほどすっきり頭にはいってこないと思いますが、マンガは偉大です、まるで自分が主人公、あるいはその妻であるかのような臨場感です。

ストロング(9%など高アルコール)系飲料にはまっている、そこのあなた!、そしてそんなパートナーを持つあなた! 取り返しがつかなくなる(失職・離婚・肝硬変・自殺などなど)前にこの本をマンガだとバカにせず読んでみることをおすすめします。本人ではなくパートナーが読んでも大きな助けになると思います。

依存症からの回復への道しるべというだけではなく、そもそも依存とは「心の穴」を埋める行為であることまで描かれているのはすばらしいです。そうなると、ゲーム依存やスマホ依存の原因も物質的には満たされた現代人が生きがいを感じにくい=心に穴を持つ、というところまでつながっていきそうです。「退屈な毎日をどうしよう!?」ってことですね。

それにしても、アルコール度数が高くて安価なストロング系飲料がどれだけ若者をむしばんでいるのか怖いものがあります。夜の民放テレビのCMはそんなアルコール飲料ばかり、それゆえにマスコミもこの問題をとりあげにくいというところもあるわけでしょうね・・・どうなっていくんだこの国は!

最後にお知らせです。このブックガイドはこれまで月2回配信していましたが、新年度4月からは毎月上旬の月1回になります。よろしくお願いします。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2021年3月)。