El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

神戸、書いてどうなるのか

神戸、結構いいよ!

2015年に”ぴあ”から刊行された「神戸、書いてどうなるのか」が文庫化された。8年前なので、コロナ前(コロナ前とコロナ後で確かに何か変わったような気が、今はしている)の本。

神戸は町が本格的にできて150年ぽっきり、明治維新で開港されて急にできた町(平清盛の頃にちょっとだけ都になったことはあるが)。伝統とはほぼ無縁な感じがいい。実際、長いこと東京で暮らしていた九州人が、何のゆかりもないこの町にきて10年、違和感がほとんどない。それほど外来者に対して開かれていると思う。

この本は、神戸に関する短文を集めたものだが、街歩きガイドであったり、グルメガイドであったり、書評集であったり、回顧録であったりで楽しめる。

本のタイトルは、神戸を歌った名曲「そして、神戸」(内山田洋とクールファイブ)の歌詞「神戸、泣いてどうなるのか~」から。しかし、実際の神戸にはこの歌詞に見合うようなウエットなところはどこにもない。そして、そのことはもちろん神戸の魅力であり、それはこの本にもしっかり書かれている。

海と山の間に置かれたおもちゃ箱のような町、それが神戸。古いところでは、西東三鬼の神戸小説もまた良い。