El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

読む・打つ・書く

理系研究者、徒然なるままに日暮し硯に向かいて

三中(みなか)先生1958年京都市生まれ。東大農学部出身で進化生物学の研究者。農水省系の独法の研究員・・・というのは仮のお姿、と言っていいのか。そもそも、東大の理系のオーバードクターとは、そういう職におさまるものなのかも。

タイトルを読み下すと「本を読む、書評を打つ、本を書く」らしい。職業人としての職場(ファースト・プレイス)、家庭人としての家庭(セカンド・プレイス)、だけでは知性のおさまりがつかないゆえのサード・プレイスとして「読む・打つ・書く」の知的生活。そのノウハウがかなり具体的に書かれています。「工学部ヒラノ教授」シリーズ(今野浩氏)の別バージョンという趣き。

「読む」「打つ」は、同年代理系の私にも参考になりました。かなりストイックな感じもします。「書く」のほうは「ヒラノ教授」もそうですが、やはり若いころから本を書いていて出版社との関係などがないと難しそうですね(自費出版ならともかく)。

そういう意味では、地味な分野の若手の理系研究者で実験やフィールドワークに追われてそれどころではないという状況でなければ、三中先生のライフ・スタイルはまあ、ひとつの理想かもしれません。特にインターリュード(1)に書かれた「ローカルに生きる孤独な研究者の人生行路」あたりの文章は、徒然草方丈記にも通じるものがあります。

定年や老化を乗り越えて三中先生のサード・プレイスがどう進化していくのか、続編を期待しています。

 

メモ

読む・打つ・書く - 東京大学出版会 (utp.or.jp)

内容紹介
ようこそ、みなかワールドへ! 理系研究者を生業としながら,数多の本を読み,新聞やSNSなどさまざまなメディアで書評を打ち,いくつもの単著を出版してきた〈みなか先生〉からの〈本の世界〉への熱きメッセージ.さあ,まずはたくさん本を読もう!
東京大学出版会創立70周年記念出版
主要目次
本噺前口上 「読む」「打つ」「書く」が奏でる “居心地の良さ”

プレリュード――本とのつきあいは利己的に
 1.読むこと――読書論
 2.打つこと――書評論
 3.書くこと――執筆論

第1楽章 「読む」――本読みのアンテナを張る
 1-1.読書という一期一会
 1-2.読む本を探す
 1-3.本をどう読むのか?――“本を学ぶ”と“本で学ぶ”
 1-4.紙から電子への往路――その光と闇を見つめて
 1-5.電子から紙への復路――フィジカル・アンカーの視点
 1-6.忘却への飽くなき抵抗 ――アブダクションとしての読書のために
 1-7.“紙” は細部に宿る――目次・註・文献・索引・図版・カバー・帯
 1-8.けっきょく,どのデバイスでどう読むのか

インターリュード(1)「棲む」―― “辺境” に生きる日々の生活
 1.ローカルに生きる孤独な研究者の人生行路
 2.限界集落アカデミアの残照に染まる時代に
 3.マイナーな研究分野を突き進む覚悟と諦観

第2楽章 「打つ」――息を吸えば吐くように
 2-1.はじめに――書評を打ち続けて幾星霜
 2-2.書評ワールドの多様性とその保全――豊崎由美『ニッポンの書評』を読んで
 2-3.書評のスタイルと事例
 2-4.書評頻度分布の推定とその利用
 2-5.書評メディア今昔――書評はどこに載せればいいのか
 2-6.おわりに――自己加圧的 “ナッジ” としての書評

インターリュード(2)「買う」――本を買い続ける背徳の人生
 1.自分だけの “内なる図書館” をつくる
 2.専門知の体系への近くて遠い道のり
 3.ひとりで育てる “隠し田” ライブラリー

第3楽章 「書く」――本を書くのは自分だ
 3-1.はじめに――“本書き” のロールモデルを探して――逆風に立つ研究者=書き手
 3-2.「読む」「打つ」「書く」は三位一体
 3-3.千字の文も一字から――超実践的執筆私論
 3-4.まとめよ,さらば救われん――悪魔のように細心に,天使のように大胆に
 3-5.おわりに――一冊は一日にしてならず……『読む・打つ・書く』ができるまで

ポストリュード――本が築く “サード・プレイス” を求めて
 1.翻訳は誰のため?――いばらの道をあえて選ぶ
 2.英語の本への寄稿――David M.Williams et al.,The Future of Phylogenetic Systematics
 3.“本の系統樹” ――“旧三部作” から “新三部作” を経てさらに伸びる枝葉

本噺納め口上 「山のあなたの空遠く 『幸』住むと人のいふ」