El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(122)ー日本ではタブー化がすすむ安楽死ー

https://uuw.tokyo/book-guide/

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第122回目のテーマは「安楽死」。生命保険にとってもむずかしい問題です。日本では関わった医師に有罪判決が下されることが多く、医療界においてもタブーとなっています。ところが、スイス・オランダ・カナダなど安楽死が合法な国は増えています。そんな国の現状を知っておくための一冊です。

最初に安楽死が合法の国で起こっている主な事象をまとめると以下の5点です。これらは、この先安楽死が合法化される国で次に起きることは何かを教えてくれます。

  1. 安楽死者の増加: 合法化された国々では、安楽死を選択する人の数が増加しています。
  2. 対象者の拡大: 安楽死の対象となる人々の範囲が広がり、末期病患者だけでなく、経済的困窮や障害を理由に安楽死を選ぶケースも見られます。
  3. 手続き要件の緩和: 安楽死の手続き要件が合法化後に緩和される傾向があります。
  4. 医療現場の日常化: 安楽死が医療現場で「日常化」され、一部の医師による「偽装」安楽死も問題視されています。
  5. 生命維持の中止: 「無益」と判断された場合に、生命維持措置が一方的に中止されることもあります。

安楽死が合法化された当初は「疾患末期の苦痛からの救済」という意味合いが強く、安楽死には「重大な病気があり、治療が不可能で、不可逆的に状態が劣化しており、耐えられない苦しみがある」など特定の条件を満たす必要がありました。そうした条件を満たして初めて、患者の自発的意思に基づき、医師が致死性の薬物を注射するか、医師が処方した致死薬を患者が自身の意思で服用することによって死に至らせる行為が安楽死だったわけです。

ところが、安楽死が合法化された国々では安楽死の対象者が拡大しており手続き要件が緩和される傾向にあるため「偽装安楽死」が発生しやすい環境が形成されています。また、安楽死と緩和ケアが混同されることにより、安楽死が緩和ケアの一部として誤解され、医療現場での安楽死が日常化してしまうリスクも指摘されています。

本書では、冒頭に相模原の障がい者施設での大量殺害事件が取り上げられており、いきなりセンセーショナルなゾーンへ議論が運ばれます。そのため「そうだよね、日本で安楽死なんて認めたらあぶないよね」という話に誘導されてしまいます。そこにヨーロッパ、北米での安楽死の適応範囲の拡大が取り上げられ、あんなこともあった、こんなことも起こったと、まるで坂を滑り落ちるようにナチスの優性思想的な弱者の排除が拡大しているというトーンで事例が取り上げられています。

一方で本書では、超高齢者医療も同じ次元で語られるところは気になります。橋田壽賀子さんの「安楽死で死にたい」が否定的に取りあげられており、結論として「すべての生は礼賛されるべき」というナイーブな話になってしまいます。

私は「障がい者や難病患者の安楽死」問題と、超高齢者問題は切り離して考えるべきだと思います。「障がい者や難病患者のケア」は社会の少数弱者を社会の制度として支えようという福祉の話ですが、高齢者医療はそのボリュームの大きさから医療経済としてとらえる必要があるでしょう。「命の話に経済を持ち込むことは悪」みたいに書かれていますが、経済的に持続可能であることも重要だと思うのです。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2024年3月)