日本最長路線バスで、災害と死の影を訪ねて
「Nさんの机で」に引き続き佐伯一麦(さえき・かずみ)の私小説(あるいはドキュメンタリーでもよい)を読んでみた。日本最長路線バスである奈良県大和八木市から和歌山県新宮市(全行程6時間超)に乗り、この行路をロードムービー風に描写する。メインとなるのは日本最大面積の村・十津川村。
十津川村は、2011年の台風による紀伊半島大水害の被災地。この地はまた、同じような水害に明治初期1889年にも見舞われており、復旧を諦めた村民が多く北海道に移住(新十津川村)したことでも知られる。
また、十津川といえば南北朝時代の南朝の地盤であり、幕末には天誅組の反乱の舞台となったところで山深いにもかかわらず日本史的にもいろいろあったところ。
著者がこの路線バスの旅をおこなったのは2016年で大水害の爪痕生々しい。バスの進行にあわせてそれらの爪痕が語られ、過去の水害が語られ、天誅組が語られ、それらの間にも東日本大震災(著者は仙台在住)や飛騨川バス転落事故、親友の自死と追想に追想が重ねられる。
クライマックスは「谷瀬(たにぜ)の吊り橋(上の表紙の絵)」そこで親友の死と自分がシンクロし・・・大丈夫か!?となったところで2年後の十津川再訪へと繋がる。なかなかうまい構成で一緒に旅をしている気分だ。この路線バスの旅に一度は挑戦してみたいものだ。