El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

アドルフに告ぐ

ヒラノ教授のオススメ手塚漫画だったけれど・・・

第二次世界大戦の時代を手塚治虫の味付けで漫画化したもの。主に神戸が舞台。「ヒトラーにユダヤ人の血が流れていることを証明する文書」の争奪戦という虚構を舞台回しにして当時の日本とドイツを描く。歴史の描写としてはゾルゲ事件やヒトラー暗殺未遂、ロンメルの毒死など織り込んでなかなか詳しい。ただし、フィクション部分とノン・フィクション部分が錯綜しているので、描かれた当時(1958)ではだれでもフィクションとノン・フィクションの区別ができただろうけど最近の若い読者にとってはどうなんだろう。

もしそうした文書があっても大して歴史は変わらなかっただろうと思うので、人生をかけての文書争奪戦というメイン・ストーリーの部分でピンとこない。その後、さまざまな史実を明らかにする本が世に出たこともあり、今となっては陳腐な部分もあるが、1958年に描かれたことを考えるとしかたないか。

ヒラノ教授のオススメ漫画はわたしにとってはヒラノ教授シリーズほどにはひびかなかった。理系人によくある人文的なものに対する底の浅さを感じないでもない。