El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

意識と感覚のない世界

医師もライティングを学んで書く時代 

 アメリカのベテラン麻酔科医の麻酔に関するエッセー集。日本語のタイトル「意識と感覚のない世界」もサブタイトル「実のところ、麻酔科医は何をしているのか」もどちらも的外れ、どちらかというと麻酔科医と患者の関りで起こったハート・ウォーミングな実話集。だから、もう少し科学的な麻酔の世界を覗いてみたいという読者のあてははずれる。

内容的には日本医事新報に医師が投稿するエッセーレベルなのでハードカバー3000円というのはちょっと高すぎとも思うが、翻訳が上手なこともあるのか文章は読みやすく構成もよい、と思って略歴を見ると著者はガウチャー大学のクリエイティブ・ノンフィクションのMFAを取得している。医学のプロがこうしたライターとしての勉強をして学位までとるという姿勢はすばらしい。