抗生物質で太ります!
この本、「失われてゆく、我々の内なる細菌」というタイトルでは???ですよね。ところが一読してすっかり著者のブレイザー教授(ニューヨーク大学・2015年タイムが選ぶ世界で最も影響力のある100人)に心酔してしまいました。それまでは、テレビなどで腸内細菌の話題が増えてきていることはわかっていたものの、いまひとつピンとこないものでした。しかし、本書を呼んで腸内細菌と抗生物質とからめて考えるとすっかり腑におちました。
家畜のエサに低容量の抗生物質を混ぜていることはみなさん知っていると思いますが、その目的が「脂がのって体重が増えるから」だったとは驚きです。腸内細菌叢(=マイクロバイオーム)を抗生物質で撹乱すると体重が増えるということが仮説ではなく実際に畜産では実用的に使われているんです。抗生物質の歴史と肥満が急増してきた歴史はシンクロしており、抗生物質やファストフード→腸内細菌叢の破壊→肥満・うつ・糖尿病という流れの分子生物学的なメカニズムも解明されつつあります。特に小児期の抗生物質でマイクロバイオームが破壊されることや帝王切開でマイクロバイオームの形成が不十分になることや、ピロリ菌の除菌でも体重が増えること、などなど目からウロコな事実が満載です。
人類と細菌の共生関係は人類誕生以来はぐくまれてきたものです。もちろん結核やペストなど過去に致死的であった細菌感染症が抗生物質で治療できたことはすばらしいことです。しかし、抗生物質の歴史はほんの50年にすぎません。抗生物質を工業的に大量に作り使用するという経験をしたのは我々からなのです。そうしたことが長期的にもたらす副作用があるとしたら、それをまた経験するのもまたこれからの我々なのです。肥満の急増はその最初の兆候なのかもしれません。
抗生物質の大量使用が人体と細菌の共生関係=マイクロバイオームを破壊し、多くの現代病を引き起こしているという考え方は、突飛なようにも見えますが、次第にその科学的なメカニズムが解明されようとしている、そんな時代の入り口にいるのでないかと感じるびっくりの一冊でした。