独特の魅惑される文体・・筆力に感服
月をモチーフの幻想物語3編。
「そして月がふりかえる」・・・不穏な気分にさせる幻想奇譚のままのほうが良かった。幻想小説としての筆力は十分にあるので、カフカ的あるいは内田百間の「冥途」的なままでよかった。最後になって同じ境遇のものたちからのメールという話にしてしまうとパラレルワールドSFになってしまって理が勝ってしまいやや興ざめ。不合理なままのほうが余韻が残る。
「月景石」・・・早逝した叔母の形見である、月の風景が表面に浮かぶ石。生前、叔母は言った。石を枕の下に入れて眠ると月に行ける。でも、ものすごく「悪い夢」を見る、と。・・・夢の中の世界と現実世界、行ったり来たりしながら次第に融合していく感覚が面白い。荒唐無稽な・・という感じを抱かせない描写力=筆力がある。
「残月記」・・・近未来の日本を舞台に感染症・月昂(げっこう)に冒された人々が地震や疫病のパニックを利用して築かれた独裁政権を生きて死ぬ、ファンタジー。ディストピア小説。これまた荒唐無稽な・・という感じを抱かせない筆力。