El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

消えた歌姫 中森明菜:西崎伸彦

ニュートラルな本。記録として年表代わりに。

「彼女は一つ音をポーンと出してあげると、下から掬い上げてビブラートをかけ、ワーッと花が咲いていくような表現ができるようになった。それが彼女のオリジナリティになったのです。」(デビュー当時のヴォイストレーナー 大本)

明菜独特のロングトーンがヴォイストレーニングから生まれた。

「彼女はいつもこちらが望む以上の結果を出してくれましたが、その集中力はある種の狂気を孕み、私自身も引き摺られた部分がありました。明菜との仕事で夜も眠れず、胃の痛みで三回救急車に乗っています。」(最初のディレクター島田)

ある種の狂気があることがスター性につながり、その狂気が普通の人間として生きることの困難さにつながる。このディレクター島田氏が自分の作詞作曲の曲を「1/2の神話」シングルB面に入れ込み印税を稼いだという裏話は初耳(本人は認めていないが・・・)。

「女は孤立によって際立ち、周りに仲間を作ることなくそそり立つ。巨大な木として育って、根は張っていても孤高にして寂しい。歌姫として上に行くほどに孤独になるけれども。塔ではないから崩れないし、決して消えない。だから私はひばりさんや中島みゆきさんが好きなのです。その系譜に連なるのが明菜さんだと思う」(加藤登紀子)

「歌姫」の孤独・・・

できる範囲ではきちんとインタビューもして書かれている印象。華々しい復活はできなくとも、天地真理のように零落することなく、穏やかな生活をしてほしい。