El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(105)―Fact or Fake? 認知症薬をめぐる攻防-

―Fact or Fake? 認知症薬をめぐる攻防-

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第105回目のテーマは「アルツハイマー病の治療薬」。いかにもセンセーショナルなタイトル「アルツハイマー征服」という本を足掛かりに読み解いてみます。

この「アルツハイマー征服」自体がフェイクな本というわけではありません。この本は、アルツハイマー病の治療薬開発の歴史を年代ごと研究者ごとに並べてくれているものでそうした歴史を知るためには非常に役に立ちます。

前半はエーザイがドネペジル(アリセプト®)の開発・商品化によって世界的企業になるまでが描かれます。ドネペジルはコリンエステラーゼ阻害薬であり、アセチルコリンの分解を抑制して脳内のアセチルコリンを増やすことで神経細胞を賦活し症状の改善をめざそうという薬剤で認知症の進行を数年遅らせると言われています。ただし、対症療法に過ぎないと言えばそのとおりで、神経細胞の脱落という根本原因を治療するものではありません。

そこで、エーザイを含む多くの企業が根本的治療薬の開発を目指しています。開発の基本となるのはアミロイドβ仮説。「アルツハイマー病の発症は、アミロイドが脳の中(ニューロンの中)にたまっていき、凝集し、βシート構造になって細胞内に沈着する。これがアミロイド斑(老人斑)で、それがたまってくると、ニューロン内にタウが固まった神経原線維変化が生じニューロンが死んで脱落する」という仮説です。

そこで、アミロイドに対する抗体を作成して投与することでニューロンにアミロイドが蓄積しないようにするというのが多くの研究の方向性となっています。そして製品化されたのがアデュカヌマブ(本のカバーにも「根本治療薬『アデュカヌマブ』承認か」とあります)。

ところが、このアデュカヌマブやはりどこか胡散臭い。アミロイドに対する抗体を投与した場合の反応系が素人目にははっきりしない。アミロイドを内部にもつニューロンを攻撃するとニューロン自体が死滅することになるのではないかと考えるがそこはどうなんだろう。

効果についてもRCT(ランダム化比較試験)が行われているわけですが、アルツハイマー病に対する効果判定というのが認知機能や記憶力というあいまいで客観的に評価しにくいものを指標にせざるを得ませんよね。アルツハイマー病は原因も仮説、それなのに抗体医薬を作りその効果判定もいまいち非客観的・・・と、私は思うわけです。

そこに驚きのニュースが! 2022年6月の「サイエンス」が「アルツハイマー病の発症原因にアミロイドβが関連しているという仮説の基本となる2006年のレーヌ氏の論文について、研究結果の画像が操作され、結果が捏造されたおそれがある」と報じたのです。この研究論文はこれまでに2269本の学術論文で引用されているアミロイドβ仮説の根拠を支える重要論文でしたが、この論文が捏造かもしれないとは・・驚愕です。。

ところが一方で、9月28日に「エーザイ・バイオジェン レカネマブ最終治験で「勝利」症状悪化27%抑制」という報道。これによると、エーザイとバイオジェンは9月28日、共同開発しているアルツハイマー病治療薬レカネマブについて、早期アルツハイマー病の患者を対象とした大規模臨床試験で症状の悪化を抑制したと発表したようです。

いわく「治験は日本や欧米、中国でアルツハイマー病早期患者1795人を対象に、レカネマブを投与したグループと偽薬のグループを比較した最終段階のもの。投与から1年半後、レカネマブのグループでは、記憶や判断力などの症状の悪化が27%抑制された。」

これってどうなんですかねえ。「投与から1年半後、レカネマブのグループでは、記憶や判断力などの症状の悪化が27%抑制された」って、大騒ぎするほどのことなのか、よくわからないのに株はストップ高と・・・このもう何が真実かよくわからない。

認知症治療薬、そもそも可能なのかを含めてまだまだ紛糾しそうですからウォッチ継続ですね。それでは、また次回!(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2022年10月)