El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

メスを超える 異端外科医のイノベーション

腹腔鏡手術やダ・ヴィンチ手術を支える医療VR

外科医療でこの30年間一番変わったのは腹腔鏡か胸腔鏡による鏡視下手術の劇的な拡大だろう。最初は胆嚢摘出術を腹腔鏡手術でやる、というのがスタートだった。あれは私の30代後半なので平成になったころ。はじめは、「手術しなくてはならない病変は小さいのに体外からその病変にアプローチするために大きく腹部を切り開かなくてはならない」という矛盾を解決するための手段だった。

それが平成年間に大きく変貌し、様々な手術を腹腔鏡や胸腔鏡でやるという時代が到来。変革期の常として事件もあった。

しかし、進歩はとまらないし、外科医のチャレンジもとまらない。今は可能なものは腹腔鏡や胸腔鏡でやるのがスタンダードになりそうな勢いだ。さらに遠隔操作の手術ロボット、ダ・ヴィンチが登場。

本書の著者、杉本真樹先生は肝胆膵の外科出身で現在40歳くらい。ちょうどマルチ・スライスCTが出てきたころに医師になった。CT画像データを輪切りにだけではなく縦(前額断)切にすることができるようにはなっていたし、そうしたデータの世界共通フォーマットDICOMも規格化されてきたところだった。

AppleのパソコンMacintoshでDICOM画像を見るためのビューワーソフトが「OsiriX(オザイリクス)」。杉本先生はOsiriXでDICMデータからCTをボリュームレンダリングして立体化し、できた3D画像をポリゴンデータに書きだす。

①ポリゴンデータにより3Dプリンタから患者特異的な臓器模型が作り出せる

②ポリゴンデータに視差調整を加えて左右視によって立体視できVR化する

というような一連の技術開発をなしとげた。これによって、腹腔鏡・胸腔鏡・ダ・ヴィンチ手術時に①により事前の病変の状態を3D模型で観察できる、②により、手術中もVRデータを患者に投影することで臓器の位置、病変の位置、周辺血管の状況などをVRで確認しながら手術することができる。

まあ腹腔鏡・胸腔鏡・ダ・ヴィンチによる手術そのものではないが、それらの手術を視覚的にサポートする一連の装置を開発したということだ。

いわゆる、自慢本・PR本とも読めるが、外科手術も様変わりしたことを確認することもできる。