El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか

ワクチンの話はほんの少しだけ・・・

ビオンテック(ファイザー)のコロナワクチンについて読んだところで、もう一方のモデルナのワクチンはどうやって超速でできたのかを知りたいと読んでみた。ところが、モデルナワクチンの話は第1章だけであっさりとした記述でやや期待外れ。第2章から最終章(第7章)まではヘルスケア産業の未来論をプラットフォーマー(第3章アップル、第4章アマゾン、第5章アリババ、第6章CVSヘルス)ごとに紹介する内容。頭にモデルナを持ってきて売り上げ増を狙ったような作りの本。

それでもモデルナについて簡単にまとめる。まずバイオ系ベンチャーキャピタルというものを知る必要がある。投資の対象となりそうな起業家を発掘して、投資家から資金を集め、起業させ成功させることで収益をあげるというのがベンチャーキャピタル。投資の対象となる分野がバイオであれば、バイオ関係の造詣が深く目利きである必要がある。そんな目利きがフラッグシップ・パイオニアリング(FP社)のヌーバー・アフェヤン氏。アフェヤン氏はMIT出身、アルメニア系レバノン人とここでも移民パワー。

FP社の投資手法はユニークで、外部の起業家に投資するのではなく、FP内で多くのプロジェクトをパイロット的に走らせ、その中からプロジェクトの成長に応じて資金を投じていくというもの。具体的には

  1. 研究室レベルでコンセプト(仮説)を立てそれを検証する
  2. コンセプトを立証して知的所有権を取得しプロジェクト・チームを作る
  3. コンセプトに基づいたプロダクトやプラットフォームを開発して事業化を進める
  4. CEOを雇いプロジェクトを企業化しFP社から切り離す

そうしたプロジェクトの一つがmRNA創薬のモデルナ社ということになる。mRNA創薬についてはこまかいテクニックの違いはあるが基本的にはビオンテック(ファイザー)とほぼ同じ。モデルナもビオンテックと同じように対象となるタンパクのもとになる塩基配列さえわかればいつでもワクチン化するプラットフォームは完成していた。そこにCOVID-19ということでウイルスの塩基配列が報告された3日後にはワクチン候補の設計が終わっていたという早わざ。

ビオンテックよりもさらにDX(デジタルトランスフォーメーション)でITやAIを駆使しているようで、アフェヤン氏に招聘されたモデルナのCEOパンセル氏と彼がさらに招聘したチーフ・デジタル&オペレーショナル・エクセレンス・オフィサー、マルセロ・ダミアーニ氏がそれを実現している。バイオテックのプロ、経営のプロ、DXのプロが一体となっているわけで、大学の狭く汚い研究室でちまちまオーバードクターが実験やっている日本との違いに愕然とする。