El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

だらしない夫じゃなくて 依存症でした

 ストロング缶に手を伸ばす、あなたはもう依存症!

だらしない夫じゃなくて依存症でした

だらしない夫じゃなくて依存症でした

  • 作者:三森 みさ
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: Kindle版
 

テレワークでホームステイのせいなのか缶やビンのゴミ出し日の朝、歩いていると毎回のように大量の缶酎ハイや缶ビールの空き缶が捨てられているのを見ることが増えた。そんなゴミ袋の絵が冒頭近くに出てくるリアリティ! この本、マンガとは言え厚労省の依存症啓発事業の中で描かれ始めただけに随所に圧倒的リアリティがあり、それに引き込まれて一気に最後まで読んでしまった。

薬物依存やギャンブル依存の既往者も登場人物としてうまく取り入れながらアルコール依存の難しさに周囲がそして当人がどう立ち向かっていくべきなのかがよくわかる。当然、そこには作者の三森さんの経験が盛り込まれており、そのあたりも最終章(番外編)におさめられている。それゆえのリアリティであり、これがアルコール依存の現実であると二段仕掛けで腑に落ちる。

さらに言えば、以前の自分の飲酒状況を考え合わせると、なんだか依存症ぎりぎりのところにいたこともあるのではないかと思ってみたり。

依存症という脳の病気であるという認識(報酬系の脳回路の話もきちんと出てくる)、保健所など適切な機関への相談の仕方(ハードルをどう乗り越えるか)、自助グループの実際、スリップ(つい飲んでしまった!)への対応などなど・・・これらは文章で書かれたらこれほどすっきり頭にはいってきただろうか、マンガは偉大だ。

ストロング(9%など高アルコール飲料)系飲料にはまっている、そこのあなた、取り返しがつかなくなる(失職・離婚・肝硬変・自殺などなど)前にマンガだと馬鹿にせずに読んでみることをおすすめしますね。本人ではなくパートナーが読んでも大きな助けになると思う。

さらには依存症からの回復への道しるべというだけではなく、依存とは「心の穴」を埋める行為であることまで描かれているのはすごい。そうなると、ゲーム依存やスマホ依存も物質的には満たされた現代人が生きがいを感じにくい=心に穴を持つ、というところまでつながっていきそう。「退屈な毎日をどうしよう!?」ってことに。

それにしても、アルコール度数が高くて安価なストロング系飲料がどれだけ若者をむしばんでいるのか、そっちも怖い。夜の民放のCMはそういうアルコールばかり、それゆえにマスコミもこの問題をとりあげにくいというところもあるわけで・・・どうなっていくんだこの国は。。。(2022/09/23PDF)