El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実

 新型コロナ本の真打!

「新型コロナ」本・・・うんざりですか?たしかに書店をのぞくとコロナ本があふれていますが、逆に増えすぎて何が何やら、みんな好き勝手なこと言ってるんじゃないの・・・という状態になってますね。それはテレビやネットも同じで、何を信じていいのかわからないという人も多いのでは。

そんな中、科学的で冷静な分析力が感じられ、信頼に足ると思えたのがこの「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」です。ちょっと怪しげなタイトルですがそれからは想像もつかないほどの良書でした。ワシントンDCの峰先生に日経の山中氏がネット越しにインタビューを基にしたものなのですが、その形式がかえって新型コロナやその報道に対する一般人の疑問に理解しやすい道筋を示してくれています。

大きく4つのパートに分かれています。ます、新型コロナに対するインフォデミックともいうべき混乱を整理し、これまでの感染や被害をまとめながら、どの程度のパンデミックであるのか基本再生産指数や致死率、重症化率を丁寧に解説、やたらに恐れるべきものではないけど単なる風邪でもない。軽症者・無症状者からの飛沫感染エアロゾル感染の予防がなにより重要で、3密対策を含めてこれまでの日本の対応は結構うまく行っていることがわかります。

2番目のパートはワクチン、今回世界中で接種されようとしているのは人類史上初の核酸ワクチンの実用化であり、かなり最先端のものなんですね。いわば緊急事態だということで最先端技術の世界的な社会実験が行われているようなものなんです。結構本来必要とされるプロセスをすっ飛ばしての接種であることを理解して、接種が先行している欧米・イスラエルで効果や副反応の発生を見る必要があります。死者数が多ければワクチンのリスクをとることが合理的と言えますが、日本の死者数レベルであれば先行国の結果を見ながら考える、あるいは旧来型の不活化ワクチンの開発を待ってもいいのではないかという話も納得です。峰先生は米国在住というリスクなどから最近モデルナ社のワクチンを接種したようです。

3番目のパートではPCR検査について、事前確率や偽陽性率・偽陰性率など新型コロナに関するデータもそろってきた現時点からみれば、「検査を拡充せよ」「無制限の検査体制」という意見がいかに的外れなのかよくわかりますね。PCR検査陰性を免罪符のように扱うことも3割という偽陰性率を考えたら疑問だらけです。

最後のパートは新型コロナに限定せず、この情報化社会における情報リテラシー、つまりどうやって情報を集め、吟味し、咀嚼し、自分の決断や行動につなげていくのかという深い話になります。医学知識だけではなく、金融商品や保険商品、政治とのかかわり方も含めて、玉石混交の情報の渦のなかからどういうふうに情報を選び取るのか、どういう情報なら信じていいのかを真剣に考える、そのときのわれわれ自身の思考のありかたについての議論です。結局、新型コロナで多くの言説が飛び交う中、自分の頭で考えないといつまでたっても安心はできない・・・それは情報があふれる現代に生きるわれわれが身に着けざるを得ない態度だというわけです。

そして、驚くべきことに最後のこの本を読んだ人が本を閉じてまず最初に考えるべきこととは・・・「(この)本は読んだけど峰とY(山本)さんから聞いたことを、本当に丸呑みにしていいの?」という疑問をもつべき・・・うーん、参りました。知的な推理小説を読んだかのような読後感。新書とは思えない充実感でした。峰先生、次作も期待しています。