El librero la Fontana

El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚「人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ 」(アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(87)―スマホ依存の原因は?―

――スマホ依存の原因は?――

スマホ脳(新潮新書)

スマホ脳(新潮新書)

 

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「スマホ依存」・・・年賀状を書いていてなんだか自分の書く漢字に自信がないなんてことありませんでしたか、私はありました。昔、カーナビが普及して道順を覚えなくなったときの感じと同じですね。途中のプロセスなんて考えもせずナビの指示通りにドライブするだけで目的地に着く。最初(数十年前)は違和感があったけれど、今はもうタクシー運転手もカーナビ頼りのことが多いです。

 スマホで同じ現象が起こっていることを警告するのが本書。それも運転という特定の作業ではなく、字を書いたり、計算をしたり、記憶したり、そんな人間の知的で基本的な作業が損なわれているらしいです。ならば、物心ついた時からスマホがあったスマホ・ネイティブの子供たちはどうなる、漢字書けなくなるのではないか。そんなスマホに対する漠とした不安をスウェーデン精神科医が精神医学・脳科学の研究データや進化論を駆使して解説してくれる本、そのタイトルはズバリ「スマホ脳」。この本売れているみたいですね。

 進化論的に言えば、人間は本質的に飢餓や外敵を避けて生き延びるように作られている。つまり、摂食することや、めくるめく周辺状況の変化をチェックすることで脳内の報酬系システムが作動しドーパミンやエンドルフィンが出て快感を得る――それが現代社会においては過剰摂食が肥満につながり、情報監視行為がスマホ依存につながるという進化論的理屈ですね――なんでも進化論を持ち出すのが流行でもあります。

 一方、人類の知恵は定住し安定した生活の中で、周辺環境に左右されず集中して考えたり学んだりすることで作られてきたのです。もちろん集中することで産み出された発見に対する喜びもあるにはありますよね。ところがやはり、より原始的な「めくるめく周辺状況の変化をチェック」のほうが脳の喜びは大きいらしく、集中して学ぶ喜びより、スマホに依存してあふれる情報の海をただようようになってしまう。

 当然、集中力はなくなる。それでも作業記憶はできるが、それを固定化して長期記憶として脳に定着させることはできなくなる。スマホで何か調べても、写真撮っても記憶に残らない・・・確かにそうですね。さらに睡眠への悪影響やSNSによるストレスで心を病むケースも増えてくる(これは日本だけでなくスウェーデン含め世界中同じらしい)。

 で、どうしたらいいのか・・・スマホをできるだけ遠ざけるのが第一だが、できそうな対抗策としては「運動」。適度な運動は知能的処理速度を回復させる。まあ、スマホを置いてウォーキングやジョギングしましょうということですね。

 著者の理論に対して、進化論的に考えれば、そのうちスマホに適応する方向に人類が進化するだろうから心配ないのでは・・・という反論は当然あるらしいです。それに対しては、スマホ依存のように生存や繁殖にメリットがない変化は継代されないので、そっちの方向への進化は絵空事でしょう・・・と、理路整然。

 しかし、スマホ依存に進化論を持ち出すのはちょっと屁理屈っぽいとも思います。漢字やスペルを覚えないことはそのとおりかもしれませんが、スマホ依存の根本原因は「現代人の退屈」にあるのではないでしょうか。現代社会の退屈を安易に埋めてくれるのがスマホだったというシンプルな考えのほうが正しいようにも思えます。この人生の退屈の話を始めるときりがないので参考図書をあげておきます。

 コロナ騒ぎも1年を超えました、この本の影響もあってテレワークの中ほぼ毎日ウォーキングしています。その間スマホはポケットの中にいれ音楽やオーディオ・ブックを聴いています。理屈はどうあれ、脳だけでなくサルコペニアの予防にもぜひ運動を!(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2021年2月)

 


参考資料

暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)

暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)