El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

熱源

樺太というブラッド・ランド

【第162回 直木賞受賞作】熱源 (文春e-book)

【第162回 直木賞受賞作】熱源 (文春e-book)

 

Audibleで聴きました。一回一時間のウォーキングのあいだ聴いて10回=10時間くらい。樺太(サハリン)の領有の変遷は日本史・世界史的な知識としては知ってはいるものの、領有を謳う国家そのものが、アイヌを含めてその地を生来の住みかとしていた人々にとっては理不尽なものだったーもちろん考えてみれば想像つくことだけどー考える機会を与えてくれたのが「熱源」。

もちろんアメリカ・インディアンやインカやアステカにとってのヨーロッパ人の仕打ちなど世界は理不尽にあふれているわけだけど、樺太や北海道のアイヌの人々にとっての日本とロシアの理不尽も同じことだとあらためて気づく。

小説としては盛り込みすぎのところがある。樺太アイヌポーランドだけでも相当間口が広がっているので東京や南極はもっとあっさり、あるいはバッサリ切るというのもありだっかも。シーンごとに主人公が多くなりすぎて、小説というよりはエピックになってしまい、おなか一杯感が残る。

それでも、こうした形で歴史が記録として残されるのは意味があることだと思う。知識ベースとしてはたいへんためになった。