El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(69)Stay Homeでウイルス・パニック小説

――Stay Homeでウイルス・パニック小説を――

夏の災厄 (角川文庫)

夏の災厄 (角川文庫)

  • 作者:篠田 節子
  • 発売日: 2015/02/25
  • メディア: 文庫
 

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、新年度で査定歴23年目に入りました自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。まだまだ続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急事態宣言です。本屋にも図書館にも行けません・・・。まさに巣ごもり生活、だんだんストレスも溜まってきますね。最近の本でウイルスパニックを扱ったフィクションってあるのかなと思って調べてみると篠田節子さんの「夏の災厄」が評判よさそうです。最近とはいっても2015年刊行と少し古いですが外出しなくても買えるKindle版で読んでみました。

 場所の設定は西多摩のあたり、夜間救急診療所や保健所が最初の舞台となります。医療者と保健所のお役所仕事のせめぎあいなど冒頭からCOVID-19の日本を思わせる展開。日本脳炎をより悪性化したウイルス感染症がじわじわと拡大していきます。少しネタバレですがこの新らしい脳炎ウイルスはじつは東南アジアでいまだに流行中の日本脳炎のために日本で開発していたバイオ・ワクチン(分子生物学的手法でウイルス抗原タンパクを無害のウイルスに組み込んで接種するもの)の失敗作が逆に高い病原性を持ってしまったものだったんです。これってCOVID-19でもありえる話ですよね(武漢研究所説)。

 感染の拡大とともに街がすさんでいく様子や、昔のニュータウンが時間経過の中でさまざまな機能不全を起こしていくことなどをからめながら主人公の保健所員がウイルスの出所を解明するために診療所のナースと大活躍。

 反ワクチン運動やワクチンの認可にかかわる厚労省との折衝も後半の重要な要素となります。COVID-19でもよく聞くワクチンの実用化まで1年以上かかるのは、そういうお役所的な事情があるのか・・とわかります。

 オチまで書いてしまってはだめなので、以下Kindleのメモ機能で本書から抜書きした「感染症あるある」をいくつか紹介しましょう。5年前の本とは思えませんね。

  • この手のごまかしが、統計や検査結果報告書にはまかり通る。
  • 情報の集積のない新しい事態に、機動的に対処する術を官庁は持っていない。
  • 病気で死ぬのは市民の責任だが、副反応で死んだら行政の責任なんだ。
  • 食材のケータリングサービスなどの宅配業が盛んになった。

 作者の篠田さんは「女たちのジハード」など今を生きる女性像を多くの作品で描いていますが、この作品でも実は行動力抜群の肝っ玉ナースのほうが真の主人公なのかもしれません。Kindle版は税込み832円です。Stay Homeのおうち読書の一冊としてぜひ。

 ウイルス・パニックと言えば昔「アウトブレイク」という映画がありましたが、今世間で評判の映画は「コンテイジョン(感染)」(2011アメリカ)です。リンク先の記事でもわかるように9年前の映画なのに今の世界をぴったり予言しているそうです。NetflixAmazon Videoで見ることできるらしいのですが・・少々怖くてまだ見ていません。緊急事態が解除されるようなことになったら見てみようかな・・とは思いますが。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2020年5月)