小説とはちがい脚色なく事実を書いているため波乱万丈の面白さはないけれど、外交ヒーローとしてではなく職業としての政治家・陸奥宗光とは何だったのかがよくわかる。端的に言ってしまえば陸奥はショック・ドクトリン(@ナオミ・クライン)的な政治が得意、つまり何か難局があるたびに立場を強化していくタイプの政論家ということだろう。
本文中に何度か出てくる「窮地を脱する際に最も才能を発揮する(P276)」とはまさにそういうこと。スケールは違うんだろうけど会社にもいるよね、こういう人物。小さいことを大問題化して自己アピールにつなげる人。
ただ、そういう自己アピールのポイントを見極める能力が高いし、「意見書」もジャンジャン書ける。獄中で大著を翻訳したり、留学先での勉強力など、基本的な能力が高い勉強家。「手持ち無沙汰のときには胸中に何かしら問題を設けて研究しておくべし、いつの日かそれが実地で入用になったとき、大いに都合がよいだろう(P274)」などとは新型コロナのstay at homeで「退屈だ・・」などと言っているわれわれ凡人は学びたいところ。
しかし、真のリーダーとは危機のない安定した社会状況の中で、来るべき危機への想像力があったり、新たな社会ビジョンを示して実現していくことができる人だろう。しかし、そういう政治は危機型政治と違って目立たない・・・。藩閥政治の中で立身していくには陸奥のように危機型であるしかなかったということか。
別の話ではあるが、条約改正・日清戦争の講和・三国干渉などなど一連の外交問題の解決の成否のカギが国内政治・世論との折り合いの側にあったということは、北方領土問題と同根なんだと再認識した。